ロボット技術・認識技術

エックス線画像解析技術

ロボット技術・認識技術 INDEX

01はじめに

食肉加工工場では、手作業による解体加工が主流であり、人手に頼ってきています。肉の仕上げ品質を高いレベルに維持するため、熟練作業者が必要ですが、手首を始め身体に負担の掛かる長時間の脱骨作業や衛生面から作業場を低温環境下に保つことが要求されるため、作業者への負担が大きく、作業者の継続的な確保が難しい状況が続いています。こうした背景から、マエカワでは、熟練を要する人手依存型からの脱却と作業者の負担軽減、衛生面に配慮した低温環境下での加工ラインの実現を目指して、除骨ラインの自動化に取り組んできています。
鶏や豚といった食肉の脱骨作業の自動化は、対象である鶏肉や豚肉(以下、“ワーク”と呼びます)が個体毎に大きさ・形の異なる“不定形”であることと、機械部品のように堅くて変形しないものではなく“軟弱”であることから非常に難しく、ほとんど取り組まれてきませんでした。マエカワではこの難題に真っ向から取り組み、1990年代前半に鶏もも肉の脱骨装置「トリダス」の製品化に成功しました。
その後、豚もも肉の脱骨装置ハムダス-R(ハムダス-RXの前身となる機種)を製品化しました。こうした“不定形軟弱”なワークを取り扱えるようになった鍵となる技術の一つがセンシングです。センシングとはセンサなどを使って、様々な情報を計測し、数値化する技術です。ハムダス-RXで使われているエックス線画像解析技術の説明をする前に、“不定形”なワークに対するセンシングの話からスタートしましょう。

図1 ハムダス-R(2009年 製品化)

02個体差のある“不定形”なワークに対するセンシング

「トリダス」で鶏もも肉を脱骨する際、2本の骨のつなぎ目部分にある筋を切る(以下、“筋入れ”と言います)必要があるのですが、鶏には個体差があって大きさ・形などが一体毎に異なるため、筋入れをするべき位置が個々に異なるという問題がありました。鶏もも肉の場合は、足首側から肉を骨から剥がしていきますので、剥がすことで露出した骨のつなぎ目の関節位置を個々のワークに対してセンシングしています。トリダスでは、骨のつなぎ目に金属板を接触させて計測する機械式のセンシングを用いています。
その後、2009年に製品化された豚もも肉脱骨装置「ハムダス-R」でも機械式センシングが使われていますが、鶏もも肉に比べると事情が違ってきています。
豚もも肉を脱骨するときにも筋入れをする必要がありますが、哺乳類である豚のもも肉は鶏もも肉よりも複雑な構造をしており、鶏もも肉の場合よりも多くの筋を切らないと脱骨することができません。ハムダス-Rで処理される豚もも肉は、寛骨という骨盤に相当する骨が除去されているので、大腿骨の先端(大腿球)が露出しています。(図2)

図2 寛骨が除去された豚もも肉

当初は、この大腿骨の先端に金属製の板を下から押し当てることで、個々のワークの骨の長さを計測していました。筋を切りたい個所は2本の骨のつなぎ目の関節付近に集中しているのですが、その部分は肉に隠れて外からは見えないため、ハムダス-Rでは多数のワークの骨の長さと関節位置の関係から、統計的に関節位置を推定する手法で筋入れをすることで豚もも肉の脱骨を実現しました。

03エックス線によるセンシングへ

外から見えていない関節の位置を推定して筋入れをすることで、豚もも肉の脱骨はできるようになったのですが、脱骨した骨の方に残ってしまう残肉を減らして、より歩留まりよく脱骨するためには、肉に隠れた内部の骨位置を正確に知り、切りたい個所を確実に切ることが必要になってきました。「内部の骨位置をどうやって知るか?」という課題に答えるために、エックス線画像解析技術を用いることにしました。
エックス線は1895年にドイツのRoentgen博士によって発見されて以来、主に医療分野で利用されてきました(Roentgen博士はこのエックス線発見の功績により第1回ノーベル物理学賞を受賞しています)。定期健診などで自分自身の胸部レントゲン画像を見たことのある人も多いのではないかと思いますが、エックス線を用いて胸部を撮影すると、外からは見えない肋骨がくっきり写っており、肺に異常があると通常と違う濃さで写ることで病気の可能性を発見することができます。
同様に豚もも肉をエックス線で撮影すると、内部にある骨が写ります。これは、エックス線が豚もも肉を透過するときに固い骨の部分では弱まり、反対に肉の部分ではあまり弱まることのないまま透過してくることで、骨と肉とが濃淡のついた画像となって得られることによります。こうして撮影した画像から、骨のつなぎ目である関節などの位置を知ることができます。

図3 エックス線の透過のしやすさと画像の濃淡の関係

04エックス線画像解析による骨位置情報の取得

図4 豚もも肉エックス線写真

エックス線で豚もも肉を撮ると(図4)のような画像が得られます。大腿骨と下腿骨・皿骨が周りの肉の部分より濃い灰色で写っています(上の細く黒い長方形はもも肉を吊り下げて搬送する器具)。もも肉からこれらの骨を除くためには、骨にくっついている筋を切る必要があります。筋は関節周辺に集まっているので、画像から関節などの位置を知る必要があります。エックス線センシングで取得したこのような画像を解析することで、刃物を持ったロボットに骨位置情報を送り、1本1本のワークに対して筋入れをします。
ハムダス-RXは左足・右足両方を処理するのですが、内部の骨は左右で反対向きになっています。左足・右足は外見では非常に判りにくいのですが、エックス線画像から判定することで間違いを減らしています。
左右判別の結果を基に、関節部がありそうな領域を指定し、大腿骨と下腿骨を抽出することで関節部を認識して位置情報を得ます。また、大腿骨の先端にある丸い部分、大腿球についても、左右判別の結果と大腿骨の位置、大腿球の形状の特徴を用いて認識し、大腿球の先端・付け根の位置などの情報を取得します。関節の外側(画像では左側)にある皿骨の位置も、すでに認識した関節の位置からおおよその場所を特定した位置情報を得ます。このように、エックス線画像からの骨位置情報の取得アルゴリズムは人間の認識プロセスに近い順序になっています。
こうして得られた骨位置情報がロボットに送られることで、ロボットの筋入れ軌跡がワーク個体に合わせて調整され、カットしたい場所をより正確に切ることが可能となるのです。

04エックス線画像解析による骨位置情報の取得

豚もも肉脱骨装置はエックス線による画像を撮るように改良され、「ハムダス-RX」となりました。

図5 ハムダス-RX

エックス線画像解析がハムダス-RXに導入された効果は、脱骨された骨に残っている肉(残肉)の重量によって評価することができます。エックス線画像解析の導入実証試験において、600本の平均残肉量を計測し、エックス線画像解析導入前の残肉量の基準に対して20%以上下回ることができました。
また、エックス線画像解析を用いたロボットの筋入れを実現したことで、肉の筋繊維を包む膜に沿って筋入れができるようになり、正肉(注1)自体を刃物で傷つけることなく、脱骨した肉の品質を向上させることができました。
このエックス線画像解析の技術を独自技術として、日米欧で特許取得することが出来ました。

こうした画像解析の技術は、エックス線画像だけでなく、可視光画像などにも応用され、ハムダス-RXに続いて、豚うで部位自動除骨ロボット「ワンダス-RX」や、鶏むね肉を分離する装置「イールダス3000」等の多くの食肉処理装置への採用が進んでいます。

(注1)正肉:枝肉を大分割または小分割し、それぞれの部位の骨を除き、血液の付着部位やリンパ節など食用にならない部分を除去した食肉のこと

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