熱・エネルギー技術

冷媒とナチュラルファイブ

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01はじめに

今日、冷媒は、私たちの生活に身近に存在し、欠かす事の出来ないものとなっています。例えば、家庭用には、冷凍冷蔵庫があり、冷凍品の保存、氷の製造、野菜や食品類の冷蔵に利用していますし、各部屋にはエアコンが設置されていて、夏は冷房、冬は暖房に快適な生活環境となるべく活躍しています。自動車用にも、カーエアコンが搭載されており、快適なドライブ環境を提供してくれています。町を歩けば、飲料用として、自動販売機を必ず目にしますし、夏は、つめたい飲み物を、冬は、あたたかい飲み物を買って、ホッと一息という経験は、一度はあるのではないでしょうか?このように、私たちの身近に冷媒が充填された機器が存在しており、毎日の生活に利用しています。

02冷媒と構成元素

ただ、単に冷媒と言っても、聞き慣れない方もいらっしゃるかもしれませんが、フロンと言えば、一度は耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか?フロンは、冷媒の仲間であり、オゾン層破壊や地球温暖化といった環境問題に関係しています。
ここでは、冷媒に関する情報とマエカワが推奨しているナチュラルファイブについて少し紹介いたいと思います。まず、冷媒を構成している元素について説明します。表1に元素周期表を示します。化学の時間に水素から順番に『水兵リーベ僕の船…』と暗記された方もいらっしゃるかもしれませんが、そのほとんどが常温で固体であり、冷媒には向かないとされています。実際に冷媒を構成している元素は、表1の中で緑色で枠をつけました8種類しかありません。表2に8種類の元素に関して、整理したいと思います。6種類の組成を構成する元素と2種類の使用用途が限定された希ガスが冷媒として利用されていまして、これからも変わることは無いと言われています。

表1 元素周期表

周期
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18
1 H He
2 Li Be B C N O F Ne
3 Na Mg AI Si P S CI Ar
4 K Ca Sc Ti V Cr Mn Fe Co Ni Cu Zn Ca Ge As Se Br Kr
5 Rb Sr Y Zr Nb Mo Tc Ru Rh Pd Ag Cd In Sn Sb Te I Xe
6 Cs Ba ※1 Hf Ta W Re Os Ir Pt Au Hg Ti Pb Bi Po At Rn
7 Fr Ra ※2

※1 ランタノイド、※2 アクチノイド
常温(15℃程度) 赤字:気体 青字:液体 黒字:固体

表2 冷媒を構成する元素

元素記号 名称 備考
H 水素 爆発性あり、燃料電池の燃料として近年注目元素。
C 炭素 CO2や有機物の構造体を作る基本となる元素。
O 酸素 大気中に20%程度存在。燃焼性あり
N 窒素 大気中に80%程度存在。不活性ガス、高温超電導冷却媒体。
CI 塩素 不燃性化、油潤滑、成層圏でのオゾン層破壊の原因
F フッ素 不燃性化のため、フロンに利用。温暖化に寄与。
He ヘリウム 絶対温度(-273℃)付近冷却、水素液化等
Ne ネオン -200℃付近の冷却、窒素液化等

03フロン系冷媒

まず、フロン系冷媒について説明します。水素と炭素からなる炭化水素の中の可燃性を有する水素のすべて、またはその一部を塩素、フッ素に置換することで、燃焼性を小さくしましたのがフロンです。表3にフロン系冷媒について説明します。CFC、HCFC系フロン(特定フロン)は、塩素を構造に含むため、オゾン層保護の観点から、使用禁止になることが決まっています。現在は、オゾン層を破壊しないHFC系フロン(代替フロン)に転換しています。基本的に、安定した物質が多く、地球温暖化への影響が大きいと言われております。近年、代替フロンの地球温暖化への影響が問題となっており、温暖化係数(GWP)の小さいHFO系フロンが開発されて、注目を浴びています。分解が早く安定性に課題がありますが、そのため地球温暖化の影響は小さいとされています。

表3 フロン系冷媒

名称 特徴・状況
CFC クロロフルオロカーボン
(塩素+フッ素+炭素)
・塩素、フッ素、炭素からなる。
・日本では特定フロンとして、すでに全廃。
HCFC ハイドロクロロフルオロカーボン
(水素+塩素+フッ素+炭素)
・水素、塩素、フッ素、炭素からなる。
・日本では特定フロンとして、2020年全廃。
HFC ハイドロフルオロカーボン
(水素+フッ素+炭素)
・水素、フッ素、炭素からなる。
・代替フロンとして、現在使用中。
・オゾン層は破壊しないが、地地球温暖化に影響。
HFO ハイドロフルオロオレフィン
(水素+フッ素+炭素)
(C=Cの二重結合有り)
・水素、フッ素、炭素からなる。
・地球温暖化の寄与が小さい。
・近年開発された。
※炭素と炭素の結合に2重結合を有するため、分解が早いので、GWPはきわめて小さい。

04ナチュラルファイブ+α

次にマエカワが推奨しているナチュラルファイブ+αについて、説明したいと思います。ナチュラルファイブと呼んでいます冷媒は、表2で示した物質のうち、すべての物質が水素、炭素、酸素、窒素のみで構成されています。これらの物質は、毒性や可燃性や使用用途が限られる等の課題はありますが、塩素を含まないため、オゾン層を破壊しませんし、炭素とフッ素の結合も無いので、地球温暖化への影響もフロン系冷媒に比べてきわめて小さいと言われています。ちなみに、アンモニアは、水素と窒素、二酸化炭素は、炭素と酸素、水は水素と酸素、空気は、酸素と窒素、炭化水素は、炭素と水素からそれぞれ構成されています。希ガスであるネオン、ヘリウムについても自然界にある物質で、化学的に合成したものではありませんので自然冷媒と言っても構わないかと思います。以下にそれぞれの冷媒の特徴を示します。

4.1 アンモニア

化学式:NH3

  • 冷凍・冷蔵から暖房・加熱まで広範囲の温度帯に対応でき、しかも「単位動力あたりに得られる熱量(COP)」が高いという特徴があります。
  • 毒性・可燃性があることから取り扱いが難しい冷媒で、安全性においても高い技術革新が常に求められています。

4.2 二酸化炭素

化学式:CO2

  • CO2冷媒はGWP=1(地球温暖化による影響の基準値)です。代替フロンであるHFC系冷媒に比べ、環境負荷の小さい冷媒です。
  • 毒性や可燃性がないため安全性が高く、冷却能力が非常に高い特徴を持っています。
  • 低温ブラインや加熱・給湯ヒートポンプの用途に利用されています。

4.3 水

化学式:H2O

  • わたくし達が普段飲んでいる水です。安全で可燃性もありません。
  • 水自身が、0℃で凍るので、凍結用途には向きません。
  • 圧力を真空にすると、低温で蒸発する事を利用して冷却を行います。
    ※標高の高い山で、気圧が下がり、水が100℃より低い温度で蒸発し、ご飯に芯が残ることがありますが、もっと気圧が下がると例えば、5℃で蒸発し、冷却に利用する事ができます。

4.4 空気

化学式:O2+N2

  • 私たちが普段、呼吸に利用している空気です。安全で可燃性もありません。
  • 理論的に潜熱利用できないので、基本的な性能はあまり高くありませんが、利用温度が低下したときの性能低下が小さいので、-50℃以下の温度になると、他の冷媒と比べて性能が良くなります。

4.5 炭化水素

化学式:CnHm ※(n≦m≦2n+2)

  • 燃料であるプロパン(C3H8)やカセットボンベや100円ライターの中身であるブタン(C4H10)がその仲間になります。毒性はありませんが、可燃性があり、取り扱いには注意が必要です。
  • フロン冷媒を使用したエアコンにこれらの冷媒を入れ替え使用すると、火災や爆発などの事故が発生する恐れがありますので、絶対にやめるようにお願いいたします。
  • 炭素数によって、炭素数1のメタンから5のペンタンと言ったように、様々な種類の物質があり、ユーザーが必要とする温度条件によって、物質を選択することが適用可能です。
  • 150℃の熱を供給するために、ペンタンを媒体としたシステムを開発いたしました。

4.6 ネオン

化学式:Ne

  • ネオンサインやプラズマディスプレイ等に利用させる物質で、窒素よりも沸点が低い物質です。
  • 空気と同じく、理論性能は高くありませんが、高温超電導材を冷却する冷凍機の冷媒としても利用されています。

4.7 ヘリウム

化学式:He

  • 数ある元素の中で、最も沸点の低い物質です。熱気球に利用させる軽いガスで、吸い込むと声が変わるガスとしても有名であり、病院にあるMRIにも使用されています。
  • 液化天然ガスの副産物として生産され、近年では天然ガスからシェールガスへの置き換わりにより価格が高騰しています。
  • リニア中央新幹線等に利用される予定の低温超電導には、材料を超電導化するために絶対温度(-273℃)付近の温度が必要でした。過去にNEDO「超電導発電機・材料技術開発(Super-GM)」のプロジェクトにおいて、超電導を冷却するためのヘリウム冷凍システムの開発を行いました。

05おわりに

ここまで冷媒に関して、説明してきましたが、地球温暖化の寄与のみで評価しても、答えに辿り着くことは難しいと考えられます。なぜなら基本的に運転条件におけるさまざま条件を考慮する必要があるからです。一番問題となるのが、稼動中のエネルギー消費(消費電力)に関わるところになります。例えば、物質自体の地球温暖化の寄与が小さくても、システム自体の性能が悪ければ、逆に消費するエネルギー由来の地球温暖化の寄与が大きくなってしまう可能性もあるからです。こういった観点から、供給温度条件の拡大から、すべての条件を満たすような物質は、難しいのでは無いかと考えられます。今後は、冷媒を用途に応じて、適材適所で使い分けることにより、地球温暖化の寄与をいかにして最小にすることを考えることが重要であるのではないかと考えます。参考までに図1にナチュラルファイブ、代替フロンの供給温度別の適用可能性について整理しました。HC、HFCは種類が多いため、適用温度範囲は広いように見えますが、決して単一物質のみでカバーできるわけではありません。マエカワはナチュラルファイブを軸として、省エネ化+ノンフロン化を同時に達成する技術開発を目指していきます。

図1 ナチュラルファイブおよび代替フロンの供給温度別適用可能性

図1 ナチュラルファイブおよび代替フロンの供給温度別適用可能性