熱・エネルギー技術

超電導ケーブルの冷却技術

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01はじめに

ライデン大学のカマリン・オネス教授は、4.2K(ケルビン)の極低温の液体ヘリウムで水銀を冷やすと水銀の電気抵抗がゼロになる超電導現象を1911年に発見しました。超電導の発見から100年以上たった今日では、実用化が進み、リニア中央新幹線やMRIのように、超電導は私達の日常生活にかかせない技術となりました。
現在、世界的に注目されている超電導応用の一つに超電導ケーブルがあります。超電導ケーブルは効率良く電気を送ることができるため、将来の電力省エネ技術として期待されています。日本では、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「高温超電導ケーブル実証プロジェクト」において、2012年に国内で初めて超電導ケーブルを電力系統につなげた実証試験が行われ、1年以上の連続運転を成功させました。前川製作所は、超電導ケーブルの冷却システム開発を担当し、実証プロジェクトに貢献しました。ここでは、前川製作所で開発した超電導ケーブルの冷却システムを紹介します。

02超電導ケーブルの冷却システム

図1 冷却システムのフロー

超電導現象は、ある温度以下まで冷却することで維持されます。そこで、超電導は、液体窒素や液体ヘリウムなどの液化ガスや極低温冷凍機を用いて常に冷やされた状態で使用されます。長さが数百mから数kmにおよぶ超電導ケーブルの場合には、液体窒素による強制循環冷却を用いてケーブルを冷却します。超電導ケーブルの冷却システムのフローを図1に示します。冷却システムは循環ポンプ、スターリング冷凍機、リザーバタンクで構成され、各機器および超電導ケーブルを真空断熱配管で接続します。実証プロジェクトで用いた循環ポンプ、スターリング冷凍機、リザーバタンクの写真を図2にそれぞれ示します。リザーバタンクに貯められた液体窒素は、循環ポンプでスターリング冷凍機に送られ、所定の温度(基準温度69K)に冷却されて超電導ケーブルに流れます。冷却システムが順調に動いているかどうかは、液体窒素の流量、温度、圧力などを遠隔監視して確認しています。

スターリング冷凍機
循環ポンプ
リザーバタンク

図2 スターリング冷凍機、循環ポンプ、リザーバタンク

03高性能冷凍機の開発

前述の実証試験では、超電導ケーブルに適した冷凍容量の冷凍機がなかったため、小容量のスターリング冷凍機を6台使用しています。将来的にはさらに冷凍容量の増大が予想され、超電導ケーブルを実用化するためには大容量の冷凍機を開発する必要がありました。前川製作所では、もともと極低温の冷凍機開発の実績があり、さらに大容量の冷凍機を得意としていたため、将来の必要性を考え、スターリング冷凍機に比べて大容量、高COPのターボブレイトン冷凍機開発に取り組みました。
私たちが開発したターボブレイトン冷凍機は、ターボ型圧縮機・膨張機(図3)を用いてガスを断熱圧縮・膨張させています。この膨張によって発生した冷熱を用いて、循環する液体窒素を冷却します。本冷凍機は、大容量だけでなく、高いCOPも達成しました。また、磁気軸受により、タービンを支持する軸を完全非接触としたため、磨耗がほとんどなく、長期の耐久性にも優れます。

ターボ型圧縮機
膨張機

図3 ターボ型圧縮機・膨張機

図4 ターボブレイトン冷凍機

図4 ターボブレイトン冷凍機

冷媒にはネオンガスを用いており、もっとも冷える膨張機出口は50 K程度まで冷却されます。一般的に極低温では真空断熱が用いられますが、冷凍機の中で極低温になる部分はコールドボックスと呼ばれる容器に入れ、真空断熱を行っています。
開発したターボブレイトン冷凍機の写真を図4に示します。性能測定の結果、この冷凍機は冷凍能力5kW(冷却温度69K)で設計通りであることが分かりました。これは、実証試験で用いたスターリング冷凍機6台分の冷凍能力になります。さらに、COPも優れていることを確認しました。前川製作所では、ターボブレイトン冷凍機の長時間の信頼性と、さらなる大容量・高効率化を目指して、現在も開発を進めています。

04おわりに

超電導ケーブルは次世代の高効率送電技術として今後、世界中で普及する可能性があり、より実用的なシステム開発が必要とされています。例えば、実用化の際には、ケーブル長さは数km~数千kmにおよぶことが想定され、上記の冷却システムを所定間隔で複数設置する必要があります。この様な長距離送電に向けた超電導ケーブルシステムの開発は今まさに始まろうとしています。
さらに、現在は、一本の超電導ケーブルを一基の冷却システムで運用していますが、一般的な電力送電は、複数のケーブルにより行われているため、実際の送電ケーブルの構成や運用条件に合わせた冷却システムを考える必要もあります。冷凍機や冷却システム単体での開発は現在も進んでいますが、実用化に向けて電力系統の中でどのように超電導ケーブルや冷却システムを構成するか、早急な検討が必要です。
超電導ケーブルを実導入するためには、冷却システムの開発がキーとなるため、前川製作所に課せられた役割は重要で、未来のより良い社会の実現に向けて頑張りたいと思います。