装置の仕組み | 19

実際の冷凍機

装置の仕組み INDEX

本章では、実際の冷凍機に関して説明していきます。冷凍機は、第10章でお話したように、冷凍サイクルを構成して、蒸発器で空気や物を冷やしています。
実際の冷凍機を構成する機器には、第11章から第18章でお話しましたように、様々なものがあります。冷凍サイクルも同様に、構成機器や、その接続方法、流れる作動媒体の違いなどによって様々なサイクルがあります。ここでは、第10章で説明しました、蒸気を圧縮して冷媒を循環させる、蒸気圧縮式冷凍機を対象にしてお話します。

蒸気圧縮式冷凍機の種類・特徴・使用例

蒸気圧縮式冷凍機は、冷凍サイクルを利用して、熱のやり取りを行い、空気や食品を冷やすことができる機械装置に用いられます。ここで、冷凍サイクルは、熱のやり取りを行う冷媒を外に漏れないように密閉した状態で循環させ、蒸気圧縮、凝縮、膨張、蒸発といった一連の状態変化をさせることにより、冷却や加熱を行うことができるサイクルのことを言います。

前章までで例に挙げていた1回の圧縮工程で構成される冷凍機のことを単段蒸気圧縮式冷凍機と呼びます。
単段蒸気圧縮式冷凍機には、これまで見てきた圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器および配管の構成要素からなるサイクル(本章では、基本サイクルと呼ぶことにします。)の他、内部熱交換器を含む冷凍サイクル、圧縮機出口の高温高圧蒸気(以下、ホットガス)を蒸発器入口にバイパスさせ、冷凍能力を制御する冷凍サイクルなど様々あります。

様々ある冷凍サイクルの中から用途に合った冷凍サイクルを適切に選定することにより、省エネルギー化や、運転範囲の拡大を図ることができます。例として挙げた、上記のサイクルに関して、構成を図1から図3に示します。

図1 基本サイクル

※1 サイクル内の作動媒体が流れる経路を1次側経路(この場合は冷媒経路)と呼び、サイクル外を流れている温水や冷却水など熱を取り出す経路を2次経路と呼びます。
※2 液体が共存している状態の蒸気を湿り蒸気と呼びます。

図1 基本サイクル

図1は、これまで冷凍サイクルの説明で用いてきた基本サイクルです。図では、凝縮器の後に受液器が追加していますが、受液器は、運転条件によって変わる、装置内を循環する冷媒量を調節するために必要となる液溜めです。この構成が、冷凍機の基本構成となります。

図2 内部熱交換器を含む冷凍サイクル

図2 内部熱交換器を含む冷凍サイクル

図2は、基本サイクルに内部熱交換器を追加した冷凍サイクルの構成です。内部熱交換器は、液ガス熱交換器とも呼ばれ、高温高圧の冷媒液と低温低圧の冷媒蒸気を熱交換させる熱交換器です。この内部熱交換器は、圧縮機に液が混ざった蒸気が吸入されることを防ぐことや、冷媒を凝縮器出口状態よりも冷却することにより、凝縮器-膨張弁間の液管中での、蒸気(フラッシュガス)の発生を防止することを目的として使用します。

図3 ホットガス調節弁を含む冷凍サイクル

図3 ホットガス調節弁を含む冷凍サイクル

図3は、基本サイクルにホットガス調節弁を追加した冷凍サイクルの構成です。ホットガス調節弁は、圧縮機出口の高温高圧蒸気を、膨張弁出口の低温低圧冷媒と混合させるために、減圧させる弁です。このホットガス調節弁は、圧縮機の吐出量を維持しながら、冷凍能力を調整したい時に使用します。

上記のサイクル以外にも、エジェクターという流体機器を用いたエジェクターサイクルや、基本サイクルの膨張弁を膨張機に、作動媒体を空気などの気体に、凝縮器と蒸発器を加熱冷却用の熱交換器にした逆ブレイトンサイクルなど、様々なサイクルがあります。そして、内部熱交換器やホットガス調節弁などの追加要素は、基本サイクルを構成する要素も含め、機器の構成要素は、冷凍機に要求される仕様を満たすように組み合わせて使用されます。
本章では、1回の圧縮工程で構成される単段蒸気圧縮式冷凍機に関して例を挙げましたが、2回以上の圧縮工程で冷凍サイクルを構成する多段化によって、冷凍サイクルの種類やその特徴もさらに多くなります。
これらのサイクルに関して解説されている参考文献を、章末に記します[1-2]。上記のように、冷凍サイクルは様々ありますが、一般的に、蒸気圧縮式冷凍機の特徴として、下記のものが挙げられます。

  • 周囲の温度よりも低温にすることが可能。
  • ほとんどの場合、圧縮機は電気駆動のため、電力が必要。
    (ガスエンジンを用いる場合など、電気以外で圧縮機を駆動させる場合もある)
  • 吸収式冷凍機(a)や、ペルチェ素子(b)といった他の冷却方式よりも高効率。
  • プレート式熱交換器を採用することなどによりシェル&チューブ熱交換器を採用した場合などと比較して小型化が実現されている。
  • (a)吸収式冷凍機は、ある溶媒に、不揮発性もしくは揮発しにくい(気体になりにくい)溶質を溶かした際の溶液に生じる蒸気圧降下、沸点上昇を利用して、サイクル外と熱のやり取りを行う冷凍機です。溶媒を冷媒、溶液を吸収液と呼び、冷媒-吸収液は、アンモニア-アンモニア水溶液、水-臭化リチウム水溶液の組み合わせが多く使われます。詳しい内容に関しては参考文献[3]をご参照ください。
  • (b)ペルチェ素子は、電子部品のひとつで、熱電変換素子とも呼ばれます。異なる金属を接合し、接合点間に電位差を生じさせると温度差が生じるペルチェ効果を利用して、熱のやり取りを行います。詳しい内容に関しては参考文献[3]をご参照ください。

蒸気圧縮式冷凍機は、上記のように、高い効率と小型化が可能といった特徴から、幅広い分野で利用されています。代表的な使用例を下記に示します。

  • ルームエアコン
  • 冷凍倉庫の冷凍機
  • 冷蔵庫
  • 冷水機
  • 製氷機

実際の冷凍機で考慮すること

実際の冷凍機では、冷凍サイクルの選定にあたり、下記の内容について考慮が必要となります。

  • 安全性や冷凍能力などの要求仕様を満たす性能
  • 環境負荷低減(機器の省エネルギー化や、オゾン層破壊防止、地球温暖化防止など)
  • 装置費用、設備費用などの装置価格に関わるコストや、開発コスト、運用コストの低減

上記内容は、制御技術とも密接に関連しているため、制御検討も重要となります。また、実際に機械の運用を始めた後も、メンテナンスによって故障を未然に防ぐことや、故障後の原因究明も重要となります。

まとめ

以上のように、圧縮機や熱交換器と同様、冷凍サイクルも様々なものがあり、実際の冷凍機では、用途に適したサイクルを選定する必要があることを説明しました。

前川製作所では、上記内容を踏まえ、用途に適したサイクルを選定し、様々な種類の冷凍機を製造しています。
製品の特徴として、主として自然冷媒を作動媒体として選択しており、機器の安全性、効率化、省エネに配慮し、オゾン層保護や地球温暖化の抑制に貢献することに注力しています。製品ラインアップは下記ホームページで紹介していますので、ご参照ください。
(製品のラインアップはこちら

以上で、”実際の冷凍機”の解説を終わります。

参考文献)

  • 1) 2015年日本冷凍空調学会編、上級冷凍受験テキスト、第2章、第4章
  • 2) 2018年日本冷凍空調学会編、日本冷凍空調学会専門書シリーズ冷凍サイクル制御、第5-6章
  • 3) 2005年機械工学便覧γ編3章p.55