低温環境の利用技術 | 03

水道管の凍結メカニズムとその利用

低温環境の利用技術 INDEX

図1 水道管の凍結破壊の状況1)

写真は、水道管の凍結破壊後の状態を示しています。鋳鉄製水道管(管直径100mm、管厚さ6mm、長さ1m水道管の両端をフランジで密閉)に水を満たし、-10℃の低温環境下に晒して凍結実験が行われました。管内に氷を生成・発達させた45時間後に大きな衝撃音とともに、水道管に写真に示すような大きな亀裂が発生して、管破壊が起こりました。水は氷になると体積が増えるため、その時の管内には120MPa(約1200気圧)*1の非常に大きな圧力が発生して、水道管の破壊となります。

*1:Paは圧力の単位パスカルで、1MPaは1000kPaであり、1気圧は101.13kPaの関係となります。

(1)水道管凍結事故の現状とその対策

今年(2018年)1月下旬の異常寒波は、全国各地で水道凍結事故が頻発したことは記憶に新しいことと思います。報道によると、新潟県佐渡市では、異常寒波の襲来した翌日の1月29日には、同市全2万4千世帯のうち、4割強の約1万世帯で水道管凍結による断水が起き、自衛隊が災害出動により各所で給水活動などを行ったと報じられました。寒冷対策の進んでいると思われる北海道旭川市(人口約30万人)においても、1976年の異常寒波により、約9000世帯において水道管凍結事故が発生して、住民生活への支障や経済的負担を強いられたことより、積極的な水道管凍結防止対策が行われ、水道管凍結事故の減少につながっています。主な水道管凍結防止策としては、土壌凍結深度*2以下への給水本管の埋設や給水分配立ち上がり管に保温措置・ヒーター加熱そして水抜き栓の設置などを実施して成果をあげています。

*2:土壌凍結深度とは、土壌中の水分が凍結する地表からの深さで、北海道では凍結深度60cmが一般的で、異常寒波時には100cmに達することもあります。

では水道管凍結は、どのような気象条件で発生するのでしょうか?
まず、外気温が-4℃以下の場合そして日陰で風の強い場合には、-2℃程度でも保温処理のしていない水道管の凍結は発生するとされています。
水道管凍結に関する情報としては、日本気象協会から水道管凍結指数の公表があり、そのデータに基づいて、各自治体が水道管凍結警報などを発表し、社会インフラとしての水道水供給の安全確保に努めています。気温などをもとに算出している凍結指数(0から100)は、次のように定めています。

  • 凍結指数 :凍結状況
  • 0~20 :水道管凍結の心配はない
  • 20~40 :郊外中心に凍結の可能性有り
  • 40~60 :日陰などで凍結注意
  • 60~80 :冷え込み厳しく凍結警戒
  • 80~100:水道管の破裂警戒

水道管凍結への対策はどのような方法があるのでしょうか?
水道管凍結対策としては、以下の方法が推奨されています。

  • ①寒波襲来の間には、蛇口から水道水を少しずつ流しておく。
  • ②外部に露出している水道管に、断熱材を巻いたり、電熱ヒーターを巻いたりして保温する。
  • ③外部に露出している水道立ち上がり管内の水抜きを行う(水抜き栓の設置必要)。

また、水道管内水が凍結した場合には、その生成した氷が少ない場合は日中の外気温の高さで氷を融解して、通水が可能となります。一方、水道管内で生成した氷の量が多い場合には、水道管にタオルなど巻いた上から温水を掛けて、氷を融解することで通水可能になります。熱湯を直接水道管に掛けると管内外の温度差による熱応力で水道管の破損に繋がることから、熱湯を直接掛けることは避けるべきです。

水道管凍結事故の事例やその防止策について述べましたが、水道管凍結に至る管内水の凍結挙動がどのように進行するのかを次に解説します。

(2)水道管内静止水の凍結メカニズム

第1回講座では、通常水は0℃では凍らずに0℃以下の過冷却水の状態から、氷核生成物質の力を借りて、氷結晶の発生から凍結が進行することを解説しました。また、通常の静止状態にある水道水の凍結温度域は、-4℃~-7℃程度であることも述べました。
図2は、-10℃の環境下に晒した水平円管(直径10mmの鋼管)内水の氷成長状態を可視化した一連の写真を示しています。まず、円管上部の温度が -6℃になった時点で、管頂部をハンマーで叩いて、過冷却水を刺激すると管頂部に微細な氷結晶の発生が見られます(図2(a))。その後、短時間(t=5秒)で図2(b)に観察されるように、薄い樹枝状氷結晶が管頂部付近に発生します。図2(c)の9秒後に、発生した樹枝状氷結晶は管中央部へ拡散し、さらにt=18秒後には管低部へと氷結晶の成長がみられます(図2(d))。経過時間t=30秒で、樹枝状氷結晶で管全体が覆われるようになります。この樹枝状氷結晶の成長速度の変化は、過冷却度の大きな軽い水の存在する管頂部では凍結が速く進み、さらに過冷却度の小さな重い水で占められる管下部では、凍結速度が遅くなることに対応しているものと思われます。
凍結時間t=18時間後には、管壁から透明な密度の大きな真氷が管中央に向かって円環状に成長している様子が理解できます。

図2 円管内水の氷成長挙動の可視化写真

図2 円管内水の氷成長挙動の可視化写真1)

水道管内の氷結晶の成長状態は、一連の可視化写真(図2)で明らかとなりました。さらに、管内外に温度センサーを設置して、管内の温度情報と図2に氷結晶の様子から水道管凍結状態を分類したものが図3です。

まず、初期温度θi = 15℃から氷点下の環境条件温度θに、水道管を曝すと、管壁温度(A)は急激に低下するとともに、管頂部の水温(B)も遅れて同様に低下します。これらの水温の変化を詳細に観察すると、管壁内部の水が冷却されてその密度が大きくなり、管壁に沿って下降流の自然対流*3が複数発生し、管内水水温の均一化に寄与します。さらに、管内水温が低下すると、水の最大密度である約4℃の水層が管底部に停留し、時間の経過と共に4℃の水層が増加して、管中央部の温度(C)も約4℃となり、他の温度(A)および(B)の変化に追従しなくなります。さらに、管壁温度(A)が低下すると、管頂部の水温は0℃以下の過冷却状態となり、その過冷却度(凍結温度0℃ - 過冷却温度)も時間と共に増大することになります。さらに、管頂部の過冷却度の大きな水が氷核生成物質の作用により突然に過冷却状態が解放されて、氷結晶の生成となります。この氷結晶を起点として、樹枝状氷が過冷却状態にある水層へ広がって行きます(樹枝状氷成長)。樹枝状氷の発生とともに、その潜熱放出により、過冷却水の温度が上昇して0℃へと漸近するようになります。その後、管壁より透明な真氷が管中心に向かって円環状に成長します(円環状氷成長)。

*3:自然対流は流体の温度(又は濃度)差による浮力により発生する自然に起こる対流です。一方、風やファンそしてポンプなどで強制的に流体を流動させることを強制対流と呼びます。

円環状氷の成長と共に管中心部の水圧が上昇して、水の氷点(融点)降下をもたらして、不凍結水の状態となります。さらに、凍結が進むと強度の弱い円環状氷層の破壊が起こり、その後管材料が塑性変形し、管材質によっては管に亀裂を発生して管破壊となります。

このように水道管の凍結破壊は複雑な現象を通じて起こることを理解していただけたと思います。

図3 水道管水の凍結過程と凍結様式1)

このような管内水の凍結メカニズムを実際の水道管凍結事故に結びつけて説明しますと以下のようになります。まず、外気温度が -4℃以下に、ある時間保持されると、水道管内水の過冷却状態が解放されて、薄い樹枝状氷結晶が過冷却度に応じて、管内に多数形成されます。この形成された樹枝状氷結晶の体積割合は数%以下ですが、その樹枝状氷層を水道圧力で押し流すには、数MPaの水圧を必要とし、通常の水道圧(0.2~0.4MPa)では押し流すことができないために、水道蛇口から水が出ないことになります。しかしながら、水道管の樹枝状氷結晶の割合は小さいために、水道管にお湯を掛けることで、氷結晶の融解が可能となり、水道蛇口から通水が可能となります。しかしながら、水道管を長時間低温環境に晒し続けると、管壁から円環状の氷が発生・成長すると水道蛇口からの水道水の確保は困難となり、場合によっては水道管破壊事故となります。発生した円環状氷は、外部からの加熱融解などで取り除く復旧工事が必要となります。

(3)水道管凍結に関する北欧諸国の対応

寒冷地域に属する北欧諸国は、生活インフラとしての水道管の凍結に関する市民意識は伝統的に高いものがあります。北欧の諺に「寒い夜には、建物内にある暖かい水道管の方が、建物外にある冷たい水道管よりも凍結被害が大きい」と言う逆説的なものがあります。通常に考えれば、冷たい環境に曝されていた水道管内水の方が、凍結による被害が大きいように思われますが、科学的な知見に基づいて、この諺の意味を検証してみます。
前述のように、水の凍結は過冷却度と氷核物質の状態により左右されます。水中にある多数の氷核物質は、水温が高くなると界面エネルギーなどの関係で氷核としての機能が阻害されて、大きな過冷却度の維持が可能となります。すわわち、20℃程度の室温に曝された水道管水の凍結温度は、-6℃~-7℃であり、数℃の低温環境に曝された水道水の凍結温度は、-4℃~-5℃となります。従って、低温環境下に置かれた水道管内水は、早く樹枝状氷結晶が管内に成長し、暖かい環境に曝された水道管水は、より大きな過冷却度になるまで時間を要してから凍結が始まります。生成される樹枝状氷結晶の量は、その過冷却水の持つ単位質量当たりの冷熱エネルギー(比熱×過冷却度)に比例しますので、過冷却度の大きくなる暖かい環境に曝された水道管の方が、より多くの樹枝状氷の生成となり、水道圧で氷層を押し流すことが難しくなり、水道管凍結による被害が大きくなります。

(4)管内凍結現象の工業分野への利用

水道管内水凍結による管閉塞(止水)現象を積極的に利用したものが、配管凍結工法、不断水工法またはアイスバルブ工法と呼ばれ、配管の分岐、バルブ交換、消火栓の取り替え、各種配管増設工事や緊急止水工事などで近年幅広く利用されています。
図4は、配管凍結工法の概要を示したものです。二つ割れの冷媒保持容器(断熱処理)の中に、液体窒素(沸点:-196℃)などの冷媒を投入して、配管周囲表面での液体窒素の沸騰による気化熱(吸熱作用)の冷却作用で配管内水凍結を起こし、止水操作の行うものです。対応する配管直径は、20mm~500mmの幅広い範囲であり、配管径の小さな場合には、冷媒として不凍液や液体二酸化炭素やドライアイスなどが利用されています。

図4 配管凍結工法のメカニズム

図4 配管凍結工法のメカニズム

図5は、配管の途中にT字の分岐管を取り付ける工事に凍結工法を実施した場合の概要を示したものです。T字型分岐管取付位置の本管の両側に冷媒保持容器を取り付けて、冷媒を注入し、配管の凍結止水を行います。分岐管取付工事の溶接作業などで発生する熱で、凍結部分の氷結晶の融解防止のために、作業期間中も冷媒の注入を継続する必要があります。

図5 凍結工法による分岐管(T字管)の取付

図5 凍結工法による分岐管(T字管)の取付

次回の第4回講座では、土壌の凍結現象とその利用技術について詳しく解説しますのでご期待ください。

参考文献

  • 1)福迫 尚一郎, 稲葉 英男: 低温環境下の伝熱現象とその応用, 養賢堂(1996)