低温環境の利用技術
連載講座の開始に際して
我が国は、四季の変化が明確な特有の気候を有しており、最高気温は2013年に高知県で41℃を記録し、さらに最低気温は北海道上川地方で1902年に-41℃に達したと報じられています。世界の最低気温は、シベリアで-71.7℃を記録したとの報告があり、自然環境下でも人工的に製造したドライアイスの昇華温度-78.5℃近くの低温環境が存在することに驚きを感じます。
我が国では古くから、冬季の低温環境(寒さ)を利用した越冬野菜(雪下キャベツ、雪白菜、雪人参等)、かんずり(唐辛子を雪に晒して辛みを和らげる)、凍結乾燥現象を利用した寒天や高野豆腐の製造技術があります。さらに、織物・竹細工を強い紫外線のもとで雪に晒して、漂白や殺菌を行う雪晒しなどの伝統技術があります。古代ローマ時代には、砂糖などと氷雪を混ぜた氷菓子が製造され、アイスクリームの原型になったと言われています。
近年に至り、冷媒を利用した冷凍機などの開発により、人工的に低温環境を作り出すことが可能となり、様々な産業分野で低温環境の利用技術が展開され、人間の生活環境の改善に寄与しています。例えば、極低温下での超伝導現象はリニアモータや送電線などに利用され、さらに細胞の凍結保存や低温手術など医療分野においても低温環境の活用がなされています。低温環境の温度範囲に関する定義は明確ではないのですが、食品冷蔵に関しては10℃以下、チルドは5℃以下、冷凍(冷凍食品など)は-18℃以下と言われています。また、低温物理の分野では、ヘリウムの沸点である4K(絶対温度)~0.01Kの範囲を極低温そして0.01K以下を超低温と呼んでいます。本講座で扱う低温環境利用技術の温度範囲は、常温から-196℃(液体窒素の沸点)としております。
低温環境利用技術では、物質に含有する水の状態でその特性が大きく異なります。特に氷点下では、物質内で生成した氷の性質を利用した様々な低温環境の利用技術があります。
参考文献
- 福迫 尚一郎, 稲葉 英男: 低温環境下の伝熱現象とその応用, 養賢堂(1996)
(稲葉 英男/岡山大学名誉教授・前川製作所技術研究所技術顧問)
ひとくちサイエンスシリーズ 著者紹介
稲葉 英男
いなば ひでお
岡山大学名誉教授
最終学歴
北海道大学大学院工学研究科博士課程修了(工学博士)
職歴
・カナダ国アルバーター大学 招聘研究員
・北見工業大学工学部 助教授
・岡山大学工学部教授
・岡山大学理事・副学長
・津山高専校長
・就実大学理事・学長
・現在、岡山大学名誉教授、津山高専名誉教授
著書
「低温環境下の伝熱現象とその応用」養賢堂 他25編
解説記事など
91編、論文:日本機械学会論文集等272編
学会賞
日本機械学会賞(論文賞)、日本冷凍空調学会賞(論文賞)等 12件