低温環境の利用技術 | 18
におい成分と雪氷や霜による消臭現象の基礎と氷結晶による消臭技術の展開
2025年1月31日
写真1 男子小便器へ氷塊の投入による消臭
写真1は、居酒屋などで見られる男子小便器に氷塊を投入した状態を示したものです。氷塊の投入は、氷結晶による尿臭の消臭作用などを期待したものです。氷結晶の臭い成分の除去メカニズムなどは、後述の(3)の(c)項において詳細に説明しております。
第18回サイエンスコラムの連載講座は、氷雪や霜と「におい」の関係について、まずにおいの特性やにおいと氷結晶の吸着現象そして雪氷や霜による消臭技術について解説します。
(1) においの科学
(a)においとは
言葉としての「におい」とは、空気中を漂ってきて嗅覚を刺激するものとされています。嗅覚で感じる「におい」のうち、良い(快)においは、「匂い」と書き、例えば、梅の花の匂いなどです。また、香料のにおいは、香りと書きます。一方、不快なにおいは、「臭い」と書き、例えば、生ゴミが臭うなどです。人によって快・不快の感じ方が異なる場合やどんな「におい」なのか判断が難しい場合は、ほのめかすという意味でひらがなの「におい」を使います。例えば、前者は「たばこのにおい」そして後者は「生活のにおい」などです。
「におい」のもとは、揮発性のある低分子の化学物質であり、数百の基本的な化学物質(代表的物質として、硫化水素、ホルムアルデヒド、酢酸メチル、アンモニア、スチレンなど)が混合することで作られるにおい物質は、数十万種類以上あると言われています。例えば、バラの香りは、100成分以上の有機化合物の集合体であると言われています。
図1は、「におい」の知覚システムを示したものです1)。まず、鼻から匂い物質が入ると、におい物質は鼻孔上部の嗅上皮(A)にある嗅粘液に溶け込んで感知されると嗅細胞が電気信号を発生し、嗅神経を介して嗅球(B)へ伝達されます。嗅粘液層には、「におい」を捕らえる嗅覚受容体(匂いセンサー)があります。約400種類の基本的嗅覚受容体があり、これらの嗅覚受容体の組み合わせで数十万種類以上のにおい物質を嗅ぎ分けることができます。
嗅球(B)からの電気信号は、脳神経回路から感情を司る偏桃体などを含む一次嗅覚野(C)そして記憶を司る海馬などを含む二次嗅覚野(D)へと伝達されて、最終的に「におい」の認識がされます。すなわち、嗅覚受容体で得られた匂い情報は、記憶や感情での処理を経て、「におい」の質や快・不快の知覚が得られることになります。
なお、人間の嗅覚には、相当の個人差があると言われています。大多数の人は嗅覚が正常であります、嗅覚が極めて鋭敏な(嗅覚過敏症)人から、嗅覚感度の低下した(嗅覚減退症)人そしてまったく「におい」を感じられない(嗅覚脱失症)人がいます。
図1 においの知覚システム1)
(b)においの定量化
「におい」を客観的に表すためにはどの位の「におい」なのかを数値化する必要があります。「におい」の数値化は臭気対策をする上で、必要不可欠なものです。表1は、においを9段階の快・不快度表示で示したものです。この表示法は、臭気などの評価するために最も重要な評価尺度とされています。
表1 「におい」の9段階快・不快度表示法
快・不快度 | 内 容 |
---|---|
+4 | 極端に快 |
+3 | 非常に快 |
+2 | 快 |
+1 | やや快 |
0 | 快でも不快でもない |
-1 | やや不快 |
-2 | 不快 |
-3 | 非常に不快 |
-4 | 極端に不快 |
その他に、表2に示すように臭気の強さに着目して数値化する方法もあります。臭気の強さにより数値化する方法は、現場ですぐに数値化できるために、臭気発生個所の調査などに利用できます。
表2 「におい」の6段階臭気強度表示法
臭気強度 | 内 容 |
---|---|
0 | 無臭 |
1 | やっと感知できるにおい |
2 | 何のにおいであるかがわかる弱いにおい |
3 | らくに感知できるにおい |
4 | 強いにおい |
5 | 強烈なにおい |
(c)においの拡散現象
におい成分が周囲へ拡散する要因としては、発生源の高さ、形状(点・線・面)、排出量などの発生源条件や、風向や風速、温度あるいは湿度などの周囲条件などがあります。
まず、湿度が高いと図2にみられるように、極性物質である水(水蒸気)はにおい分子と水素結合などで結合して湿り空気中に滞留することで、においを感じやすくなります。また、空間中と壁などの固体内の濃度を同じにしようとする力が働き(水との親和性が高くなる)、水分子が壁やカーテンなどに染み付いたにおい分子を追い出すため、壁などから「におい」が拡散することになります。
におい分子は、通常の温度で液体から気体になりやすいという性質(揮発性)を持っています。
また、温度が高くなるとにおい分子の揮発性は高くなり、より「におい」を感じやすくなります。わかりやすい例として、調理中は料理のいい「におい」が漂ってきますが、冷めてしまった料理からはあまり「におい」を感じないのは温度が関係しています。さらに、空気の動きも「におい」の広がりに関係します。晴れている日は、日射により地表面は温められ温度上昇により発生した上昇気流がにおい分子を上空に運びます。しかし、曇っている日は上昇気流が弱く、におい分子は地上付近に留まり、においを感じやすくなります。
図2 湿度状態による水蒸気とにおい分子の関係
(d)臭いの臭気対策
臭いの臭気対策には、主に以下の方法が普及しています。
①物理的消臭法: 臭気を吸着など物理的作用等で除去又は緩和するもので、活性炭や備長炭などの消臭剤の利用があります。
②感覚的消臭法: 臭気を他の香り等でマスキングする防臭剤の利用そしてペアリング消臭と呼ばれる消臭芳香剤を利用して悪臭を良い香りの一部として取り込んで良い香りに変える方法です。
③化学的消臭法: 臭気を化学反応によりにおいの無い成分に変える方法です。化学反応には、酸性とアルカリ性の中和反応などを利用したものがあります。具体的には、重曹、クエン酸やお茶のポリフェノールなどの利用があります。
④生物的消臭方法: 生ごみ臭や糞尿臭などは、主に雑菌が生み出す臭いで、この悪臭を作り出す雑菌が繁殖しないようにして、悪臭の発生を抑える方法です。具体的には、除菌剤を利用して雑菌自体の除去や抗菌性のある香料を利用して雑菌を発生しにくくする方法です。
(e)においの関係式
「におい」の濃度と強さ感覚の関係は、以下の方法で表されます。
•フェヒナーの法則:感覚に関する基本法則で、中等度の刺激について感覚量は刺激量の対数に比例する。「におい」の濃度の対数と強さの感覚が次式のように比例関係にあります。
\(I=a\ log\ C+b\)
ここで、\(I\):においの強さ、\(C\):においの濃度
通常、におい物質の濃度が10倍程度にならないと強さが変わったとは感じない。すなわち、「におい」の濃度が100の場合は、においの強さは20、においの濃度が10,000の場合は、においの強さは40となります。
図3は、物質の濃度Cとにおいの強さIの例を示したものです。
図3 物質の濃度(対数)とにおいの強さの関係
図3より、刺激のある「におい」の傾きは、芳香の「におい」よりも急になります。
(2) においと霜や氷面の吸着現象
第2回および第3回サイエンスコラムにおいては、水(H2O)の分子構造や氷結晶の分子構造について説明を行いました。水分子の酸素原子は電気陰性が強いために、水分子の酸素原子側は陰性(マイナス)そして水素側は陽性(プラス)に帯電した極性物質となり、この両原子間にはクーロン力の働きにより、両原子間の結合角度は104.5°となります。また、水の状態から氷結晶へ相変化により、両原子間の結合角度が109.5°に拡大することも説明しました。当然氷結晶表面などにおいては、水素側は陽性(H+)、一方酸素原子側は、陰性(OH-またはO2-)の極性物質として機能します。
(a)氷や霜表面へのにおい物質の吸着現象
氷の表面においては、におい物質はファンデルワールス力(弱い分子間力)による物理吸着と共有結合による強固な化学吸着により、におい成分が補足されます。図4(a)はカチオン(陽イオン)を有するにおい物質などが氷表面上にある水分子のダングリングOH基*1(0H-)と配位吸着した状態の模式図を示しています。配位吸着した臭い物質などは表面での束縛状態から氷結晶粒界などを介して氷層内部に取り込まれます。カチオン物質は氷表面にあるダングリングOH基と結合するために、回転振動の振幅は小さいことになります。
図4(a) カチオン(陽イオン)を有するにおい物質などが氷表面上における状態
一方、図4(b)は、アニオン(陰イオン)を有するにおい物質などが、氷表面上にある未結合水素と水素結合して、大きく振動します。この振動に伴って周囲の水分子の回転振動が誘起されることになります。
図4(b) アニオン(陰イオン)を有するにおい物質などの氷表面上の状態
図5は、分子動力学計算によって求めた氷結晶表面の振動スペクトルを示しています。実線はNO3-(アニオン)を吸着した氷のスペクトルを示し、点線はNa+(カチオン)を吸着した氷のスペクトルを示します2)。両方のスペクトルには3300cm-1付近の幅広いバンドそして3600cm-1付近のピークは、不純物を含まない純氷表面にスペクトルも存在して、水素結合を形成する水分子のO-H伸縮振動モードとダングリングの伸縮モードであるとされています。一方、吸着した氷のスペクトルのみに見られる3540cm-1付近のピークは、ダングリングボンドの先端に吸着したアニオン(NO3-)の影響により、O-Hボンドの伸縮振動エネルギーは低下することになります。この変化に伴い、周囲に存在するダングリングボンドも影響を受けて振動エネルギーが低下することになります。このように氷表面の水分子の協調的な振動の伝播は、氷結晶構造の無秩序を促進して、水素結合のネッワークの破断となり、氷結晶がより液体に近い状態となります。
なお、におい成分の中でも、多くを占める芳香族化合物(主にベンゼン環を含む有機化合物)が氷結晶表面に吸着されやすいとされています。
図5 分子動力学計算によって求めた氷結晶表面の振動スペクトル2)
*1 ダングリングOH基:共有結合結晶では、2つの原子がそれぞれ1つずつ電子を出し合い、その原子対に結合軌道上に2つの電子が占めることで強い安定的な共有結合となります。一方、格子欠陥近傍の原子や結晶表面の原子は、結合相手を失っているために、反応性に富み、不対電子(結合に関与しない原子)が占められている結合手が存在します。このような結合に関与していない結合手をダングリングボンドと言います。ダングリングOH基は氷結晶表面に特有の水素結合していないヒドロキシ(OH)基であり、氷表面において分子の吸着サイトとして機能します。
アンモニア分子が氷表面上にある場合には、極性物質であるアンモニア分子が氷界面にあるダングリングOH基(free OH)と水素結合します。水素結合したアンモニア分子は、氷表面に留まらす氷結晶層中を拡散移動します。図6は、白金膜上に形成された氷結晶層とアンモニアの挙動をフーリエ変換赤外分光法(FTIR*2)により、観察した結果の概要を示したものです3)。まず、氷表面上ある極性物質である水分子のOH基(free OH)にアンモニア分子(極性物質)が弱い水素結合で吸着します。この吸着状態でのアンモニア分子は、波長1470cm-1の赤外線を吸収(共振)されることになります。その後、アンモニア分子は氷結晶内(結晶界面など)を拡散して、白金膜上に到達します。このアンモニア分子の状態においては、波長1260cm-1の赤外線がアンモニア分子に吸収されてアンモニアの存在が認識されます。
図6 氷結晶層内のアンモニア分子の吸着と拡散現象のモデル化3)
*2 FTIRは、波長を変化させて試料に赤外線を照射するのではなく、赤外線の連続光を試料に照射して、干渉パターンをフーリエ変換することで分子構造に応じた吸収スペクトルを取得し、試料物質の原子団(基)の情報を得る手法です。
(3) 氷結晶による臭いの除去技術
(a)生活環境での臭い物質
生活環境での不快な臭いの原因となる主要な化学物質は以下の物質が原因で引き起こされています。①アンモニア:トイレの臭いや糞尿の臭い、②トリメチルアミン:腐った魚の臭い、③硫化水素:腐った卵の臭い、④メチルメルカプタン:腐ったキャベツ、たまねぎの臭い
前述の項において、氷や霜表面へのにおい物質の吸着や拡散現象を利用して、臭い物質除去について説明しました。
ここでは、具体的に実施されている氷や霜などによる臭い成分の除去技術などの現状を解説します。
(b)冷蔵庫冷凍室内における霜への臭い移り現象
冷蔵庫内は、賞味期限切れの食品や長期保存された食材などから様々な臭いやかび成分が拡散充満しています。また、ポリ袋などのビニールやプラスチック類も長期間の保存で劣化して、臭い成分を放出しています。図7は、冷蔵庫内に充満するにおい成分や水蒸気と冷凍室に発生した霜との関係を示したものです。霜は微細な針状の氷結晶が成長した空気を多く含む多孔質構造を有するもので、この多孔質構造の氷結晶表面へ前述の(2)項目で述べたメカニズムで臭い分子を吸着そして氷層内部へ拡散することで霜への臭い移り現象が起こることになります。
冷凍室内や氷点下の温度条件のもとで、霜を構成する氷結晶は、周囲の水蒸気分圧が飽和水蒸気圧(昇華水蒸気圧)よりも高ければ、昇華凝結現象により水蒸気が氷結晶へ相変化します。この霜層の成長により、臭い成分が霜層へ取り込まれる量が増加することになります。
一方、水蒸気分圧が低下した場合は、昇華蒸発により霜層の減少となり、氷結晶が吸着した臭い成分を冷凍室内へ放出することになります。なお、冷蔵庫ドアに開け閉めによる外部空気の流入により、冷凍室温度や湿度の変化も、霜層との臭い移り量も変化することになります。
図7 冷凍庫(冷凍室)内の霜と臭い物質や水蒸気の挙動
冷蔵庫の製氷器で製造した氷に臭いが付く場合があります。臭い物質としては、冷蔵庫内にある食品やカビなどから放出される臭い物質が、氷表面に水素結合などにより吸着そして氷層内部へ拡散することで固定化され、かび臭さや食品の臭いが混ざった臭いのする氷となります。
さらに、水道水で作った氷の場合には、殺菌のために投入されている次亜塩素酸カルシウム(Ca(ClO)2)とフェノール(C6H5OH)が結びついて、カルキ臭の原因物質である2,6-ジクロロフェノール(C6H3Cl2OH)が氷層へ取り込まれることで、強いカルキ臭となります。
さらに、空調機器(エアコン)からも嫌な臭いが排出される場合があります。その臭い原因は、エアコンの熱交換器フィンなどに付着した雑菌やカビそして室内に漂う生活臭(食品やペットの臭い、人の汗、たばこの煙など)などです。通常はフィルターにより、殺菌やカビなどは取り除きますが、小さな雑菌や生活臭さらにカビ菌などはフィルターを通過して、エアコンの熱交換器フィンなどに少しずつ蓄積されます。そしてカビは有機物などを栄養源として成長して臭いの発生源となります。
エアコンの臭いを除去する方法には、エアコン温度を周囲空気の露点温度以下に設定して、熱交換器フィン上に結露水を生成し、結露水ににおい成分を溶解させて外部へ排出する方法があります。また、エアコン熱交換器フィン上に霜層を生成して、霜の融解操作により発生した水分に臭い成分を溶解させ後、外部へ排出する方法もあります。
(c)男子小便器の臭い対策
前掲の写真1では男子小便器に投入した氷塊の状態を示しました。ここでは、尿臭の原因や氷による消臭効果などを説明します。
尿の臭いは、バクテリアの作用により尿中の成分が分解されることで発生する臭いです。バクテリアの有する酵素(ウレアーゼ)の機能により、残留した尿素がアンモニアと二酸化炭素に分解されます。アンモニアの生成でpHが上昇することで尿中のカルシウムイオンなどが尿酸塩などの尿石を生じます。多孔質の尿石が様々なバクテリアや有機物の温床となり、アンモニアやトリメチルなどの成分からなる腐敗臭を放出することで、臭いが発生することになります。
居酒屋やホテルなどの男子小便器に氷塊を投入されることがあります。トイレが抱える最大の悩みは、アンモニアなどの悪臭です。排泄されたばかりの尿の温度は約38℃です。上述の尿石からアンモニアなどが発散されることによって独特の臭いとなります。前述の図6で説明しましたように、氷はアンモニアなど親水性成分を吸着する性質があり、アンモニアなど成分の拡散を防止できます。さらに、氷に触れると急速冷却され、悪臭の発生が抑制できるほか、細菌の増殖が防げます。氷が溶けて流れる水分が増えることで、尿に含まれる尿石などが便器に滞らずに排出されるため、小便器に汚れが付着しづらくなる効果もあります。
(d)夏季冷房用雪層による臭い成分の除去
冬季の降雪を貯蔵して、夏季などに冷房用冷熱源として活用する技術が有ります4)。
雪や霜などは、アンモニアなどを吸着除去する機能を有しています。図8は、雪層内を汚れた空気が通過する際のアンモニアなどの臭い成分が、雪結晶に吸着される場合の除去率の測定装置を示したものです。雪層深さZ=2mそして断面(1m×1m)として、30℃の臭気成分を含む空気を雪層に設けた多数の細孔(直径5cm)に流して、臭気成分を雪結晶に吸着除去することになります。
図8 雪層による臭い成分の除去装置の概要
① 残雪率による除去率
臭い成分の除去率は、\(n=(1-出口空気の臭い成分濃度C_{ out }/流入空気の臭い成分濃度C_{ in }) \times 100\)[%]としています。試験における条件は、アンモニア濃度3ppm、風量0.0255m3/s、入口空気温度30℃、出口空気温度約1℃です。図9より、融雪高さ割合(融解後の雪層高さ/元の雪層高さの割合)が変化しても除去率はほとんど一定の値を示すことがわかります。この条件における平均の除去率は\(n=39\)% です。このように残雪率の影響を受けないことは、実用上雪層は、扱い易い臭い成分除去手段と言えます。
① 残雪率による除去率
臭い成分の除去率は、\(n=(1-出口空気の臭い成分濃度C_{ out }\)\(/流入空気の臭い成分濃度C_{ in }) \times 100\)[%]としています。試験における条件は、アンモニア濃度3ppm、風量0.0255m3/s、入口空気温度30℃、出口空気温度約1℃です。図9より、融雪高さ割合(融解後の雪層高さ/元の雪層高さの割合)が変化しても除去率はほとんど一定の値を示すことがわかります。この条件における平均の除去率は\(n=39\)% です。このように残雪率の影響を受けないことは、実用上雪層は、扱い易い臭い成分除去手段と言えます。
図9 雪層高さ割合と臭い成分除去率の関係
② 風量の影響
アンモニアを含む空気の風量を変えた場合の除去率を図10に示します。除去率ηは風量の増加に従って減少する傾向にあります。また、図10中には出口空気(ガス)の平均温度も示しています。風量を0.0085m3/s程度まで少なくすると、アンモニアの除去率は約70%まで上昇しますが、出口空気は約4℃まで冷却され、一般の居住空間の冷房には冷却し過ぎることになります。夏季冷房空気温度は10℃以上で運転されることが多いので除去率は、45%以下になります。ただし、冷却装置は室内の空気を循環して冷房することから、除去率はその循環回数分実用的には上昇することになります。例えば、除去率40%でも2回雪冷却装置内を通過すれば64%になり、5回循環すれば除去率は93%になり、十分に実用的な範囲と言えます。。
図10 アンモニアの除去率と風量の関係
③ 各種臭い成分の雪層による除去率
エタノール、ホルムアルデヒド、トルエン、エタノールなどは病院などで消毒剤に用いられていますが、アルコール工場の排ガスにも含まれ、黒カビ発生の元になるため除去対策が求められています。これらの物質は、親水性であることから雪解け水によく吸収されています。図11は風量が0.0255m3/sの条件において、平均臭い成分の除去率は45%程度です。これは図9で示したアンモニアの除去率より多少高い値となります。ホルムアルデヒドはシックハウス症候群として室内空気汚染物質として注目されている物質で合板などの接着剤として多く使用されています。図11より平均39%の除去率となります。なお、化学物質の汚染物の中でもトルエンが多くのオフィスなどにおいても最も高い濃度で検出されていますが、雪層ではトルエンはほとんど除去できない結果となっています。トルエンは親水性が低いことより、雪結晶では吸着除去できないことになります。
図11 各種の臭い成分の雪層除去率
(e)生ごみの消臭防止用ダストフリーザー
室内に放置した生ごみは、腐敗が進行して臭いも強くなります。システムキッチンに組み込まれたダストフリーザー(図12)は、生ごみ収納容器を冷却冷蔵処置で冷却凍結することで、生ごみの腐敗を回避して、生ごみからの悪臭を防止するものです5)。
生ごみの1日1人当たりの排出量は、250g程度であり、4人家族で1日1kgとなり、約4日分を想定して、ごみ収納容量は16ℓとしています。凍結温度は-16℃として、生ごみを凍結した状態で捨てるので、液だれが無い状態で処理ができるとされています。
図12 システムキッチンに組み込まれたダストフリーザーの外観と冷却部構造の概要5)
生ごみダストフリーザーによる臭気強度を調査した結果を図13に示します。
実験方法は、実際の厨芥(ちゅうかい)*3調査結果に基づく4人家族の1日分の厨芥をダストフリーザー内に収納し、それぞれの温度帯で保管した。一定の時間ごとにパネラーにより庫内臭気を官能評価したものです。ダストフリーザー内の臭気強度は最終的に強度2と評価されています。
臭気強度は、前掲の表2で述べた6段階臭気強度は以下のようになります。
0:無臭:、1:やっと感知できる臭い、2:可の臭いであるかわかる、3:楽に臭いを感知できる臭い
4:強い臭い、5:強烈な臭い
*3 厨芥:台所から出る野菜のくずや食べ物の残りなどのごみ
図13 ダストフリーザーの臭気強度測定結果
なお、最近においても-10℃程度で生ごみを凍らせて臭いを抑える低温ゴミ箱(容量20ℓ程度)が発売されており、臭いやすい生ゴミの保管以外に、赤ちゃんなどのオムツ臭いの防臭などにも活用されています。
参考文献
- 1)岡本雅子、東原和成、匂いを感じるメカニズム、建設コンサルト協会誌(2023)、299号、頁14
- 2)深澤倫子、氷結晶の表面構造と機能、日本惑星科学会誌(2007)、16巻1号、頁53
- 3)高岡毅 ら、氷薄膜/Pt(111)表面におけるアンモニアの吸着と溶解、表面科学(2004)、Vol.25、No.8、頁491
- 4)飯島和明 ら、雪を利用した冷房装置の空気清浄効果、衛生工学シンポジウム論文集( 2002)、10号、頁93
- 5)ダストフリーザーカタログ(NR-AX3A)、松下電器産業(株)、(1989)、頁2