
基盤技術開発グループ 回転機技術開発チーム
奥 達也
大学院時代の研究がそのまま仕事に活かされることはない?就職活動の際、大学・企業問わず数多く言われている言葉だ。しかしながら、ときに一生付き合っていけるテーマとめぐり合える人材もいる。55名の研究者が在籍する技術研究所において、12名在籍する博士号保有者の一人である奥は、「スクロール圧縮機」というテーマで大学院時代から現在まで一貫して研究を続けている
基盤技術をベースに新製品を実用化する
製氷冷蔵業からスタートした前川製作所は、圧縮技術・低温技術・熱交換技術・流体技術という4つの技術をコア技術とし、冷凍から食品全般、そして化学業界など、さまざまな分野で事業を展開している。奥が所属する基盤技術開発グループの回転機技術開発チームは、そのコア技術の一つである圧縮技術について、従来製品の改良および新製品につながる要素技術の研究開発を進める部門だ。奥が取り組んでいるのは業務用スクロール圧縮機の研究開発。「2年前に就職してから一貫して現在のテーマであるスクロール圧縮機の研究開発に取り組んでいます。少しずつ研究開発も進み、フィールド試験も始まっています。いい製品に仕上げたいですね」。現在の業務を楽しそうに語る。
冷凍装置の心臓「圧縮機」
そもそも圧縮機は、気体を吸い込み排出するまでの間に、一定の圧力まで気体を圧縮する機械だ。普段目にすることは少ないが、実に多くの場所で使われている。たとえば冷蔵庫やエアコンに使われる圧縮機は、フロンのように沸点が低い物質を、圧縮機を使って強制的に気体から液体にする。そのあとで圧力を開放することで、フロンが液体から気体に戻る際に周りの熱を奪い、様々なものを冷やすことができるというものだ。その中でスクロール圧縮機は、1対の渦巻き体の一方を固定し、もう一方を旋回運動させることで吸込んだガスを圧縮する。奥はより効率の高いスクロール圧縮機を作れるよう、日々実験を行い、そのデータをもとにシミュレーションを行う。実験と理論の両面からブラッシュアップを重ねて製品としての完成度を高めているのだ。
好きなことをやり続ける
「小さい頃から機械やカラクリが好きで、色々なものを分解して遊んでいましたね」。奥は幼少時代をそう振り返る。本格的に技術者の道を決めたのは中学3年のとき。阪神大震災で家が全壊した。幸い家族全員が無事だったが、2時間全壊した家の中に閉じ込められた。その後、救出作業や解体作業に使われたパワーシャベルの力強さを実感し、機械技術者の道を進むことを決めて大阪電気通信大学の工学部機械工学科に進学したのだという。「研究が本格的に面白いと感じ始めたのは修士課程に入ってからですね。元々行く気がなかった博士課程まで進学してしまいました」。テーマは家庭用スクロール圧縮機の軸受けの潤滑メカニズム解明。
スクロールが旋回運動を行う際の軸受けの潤滑メカニズムを解明することで、より効率的な圧縮機を作ろうというものだった。実験結果から理論を構築してまた実験にフィードバックするという研究のプロセスそのものの魅力にのめりこんだ。
大学と企業の違い
指導教官が共同研究を行っていた前川製作所を紹介され、自分の研究テーマであったスクロール圧縮機を開発していたところに興味を持ち、入社を決めたのだという。「大学時代は家庭用、会社に入ってからは業務用のスクロール圧縮機について研究開発を行っていますが、その研究プロセスに大きな違いはありません。とにかく実験とシミュレーションの繰り返しです。しかしながら、時間の管理や安全面に対する意識は企業のほうが圧倒的に強いですね。安全面を考慮し実験は必ず2人以上で行うため、事前に実験時間を決めてスケジューリングをする必要があります。当然、学生時代のように自分の好きなタイミングでは実験できません。徹底した安全管理のもと、限りある時間の中で最大限の成果をあげるという、企業の基本的な考え方を実感しています」。
絆が生み出す未来
「学生の皆さんには、ぜひ学会や共同研究で色々な企業や大学の先生と仲良くなることをお勧めしたいですね。進路を決める上でも、業務面においても、人とのつながりが非常に大切だと感じています。私自身、学会で前川製作所の方と出会い、会社のことを知っていたことがきっかけで今のキャリアがありますし、業務を行う上でも、チームの同僚はもちろんのこと、部品の試作では職人さんたちとの信頼関係が非常に重要です」。現在は、研究開発のほかにも新入社員研修の講師を務めるなど、自分の強みである研究開発の分野から、人とのつながりはどんどんと広がっている。
自分が生かされている場所から自分を捉え、共創を通じて問題解決力を深めていく。前川製作所の人材育成に対する考え方は、確実に奥の中に根付いていた。