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研究開発紹介 Research and Development Introduction

TOP>研究開発紹介>空気を利用した冷凍システム『パスカルエア』(3)

空気冷媒で-60℃以下を実現する超低温冷凍システム(3)

3.『パスカルエア』の心臓部、一体型圧縮膨張機

では、超低温の世界を実現する『パスカルエア』の仕組みをもう少し詳しく説明しましょう。

『パスカルエア』の内部には、心臓部ともいえるターボ圧縮機があります。ターボ圧縮機は、羽根車を高速で回転させ、そのエネルギーで空気を圧縮することができます。このターボ圧縮機を動かすのは電力ですが、圧縮した空気を一気に噴き出して膨張させる際に、膨張機で発生する断熱膨張仕事を、モーターを介して圧縮機の補助動力として使用できるため、圧縮機の動力が約2/3となり、高効率連動が可能になっています。このように、圧縮機と膨張機がモーター軸で繋がって一体化しているのが『パスカルエア』の最大の特徴です。

*ターボ圧縮機については「圧縮機・回転機」をご参照ください。

一体型圧縮膨張機の仕組み

図4 一体型圧縮膨張機の仕組み

圧縮機とモーター部分は90℃以上の高温ですが、膨張機側は-80℃になっています。つまり、軸(シャフト)を境に200℃近い温度差があります。この温度差は性能に大きな影響を与えるため、空気の流れや断熱を考慮した設計をする必要がありました。

そこで、回転するシャフトの軸受には、特殊な環境でも安定した高速回転が可能な非接触磁気軸受を採用しました。従来のボールベアリングの軸受には潤滑剤が必要でしたが、この磁気軸受はシャフトが常に空中に浮いているのでどこにも接触していません。そのため、潤滑剤は不要になり、磨耗する部品がなくなりました。また、ほぼメンテナンスフリーのまま長時間の運転が可能であることも確認できました。その他、磁気軸受の特長を活かして電気的に能動制御を行うことにより、振動・騒音も小さく、外部からの監視運転や異常検知機能を持たせると共に、油潤滑のための機器類を省くことにより、コンパクトな設計が可能になりました(図4)。

なお、この『パスカルエア』は庫内の空気を直接用いるオープンサイクルであり、最高使用圧力が0.2MPa以下と低圧で運転されるため、高圧ガス保安法の適応外となります。そのため設置時の届出申請が不要であり、日常の設備管理も容易です。


4.実際の冷蔵倉庫でのフィールド試験

マグロ専用の冷蔵庫において、品質維持のために庫内-60℃の温度管理が重要とされています。しかし庫内を低温に維持するために多大なエネルギーコストが発生します。その上2020年以降はフロン系冷媒の使用が制限されるため、近年フロンに代わり環境負荷や毒性がない新冷媒を利用する冷凍設備の開発、実用化が求められてきました。

そこで某冷凍倉庫会社のご協力の下、空気を冷媒として用いる『パスカルエア』試作機をマグロ用冷蔵庫に設置し、運用試験を行いました。

『パスカルエア』を導入したことで庫内を均一な温度に保つことが出来た上、少ない風量で十分マグロを冷却できたため、既存の冷凍設備に比べ品質管理が容易となりました。またブライン、冷媒、冷凍機油の充填作業が不要になったことでメンテナンスの手間がほぼなくなり、電気料金は従来に比べ大幅に削減できました。

パスカルエア写真

図5(左) 冷蔵倉庫の隣室に導入された『パスカルエア』
図6(右) -60℃のマグロ貯蔵用の冷蔵倉庫内(天井のパイプが-80℃の冷気吹き出し口)

『パスカルエア』は、冷蔵倉庫の壁に吸気管と排気管の2つの穴を開けるだけで設置が可能です(図7)。しかも、エアクーラーを設置しないため霜取り作業が不要となり、庫内の有効面積は約10%も広くなり、省エネとマグロ貯蔵量アップにも繋がりました。そして2009年11月、NEDOプロジェクト「エネルギー使用合理化事業者支援事業/営業倉庫における省エネ設備・技術導入省エネ事業」の補助金を受け、誕生して間もなかった『パスカルエア』6台が新設の超低温冷蔵倉庫に導入され、本格的な稼動を始めました(図5,6)。その効果は絶大で、従来に比べ30%以上の省エネ運転であることが実証できました。翌年8月には隣接する既存の冷蔵倉庫リニューアルに合わせて、さらに2台が導入されました。

2015年末現在、『パスカルエア』は既に70台納入され、マグロ専用の冷蔵庫ではスタンダードになっています。2009年に納入した1号機は6年間メンテナンスフリーで運転されています。

冷蔵倉庫内につながる吸気管(左)と排気管(右)

図7 冷蔵倉庫内につながる吸気管(左)と排気管(右)



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