前章で、汗で体が冷えて風邪をひいてしまう話をしました。他にも、注射を打つときのアルコール消毒で腕がひんやりした経験もあると思います。これらのキーワードは「蒸発」です。
汗をかいて濡れているところでは、水分が蒸発してまわりの空気が湿っています。空気が湿っていると水分が蒸発しにくくなります。雨の日に洗濯物が乾きにくいですよね。そこに乾いた風があたると湿った空気がどこかへ飛ばされて、また水分が蒸発できるようになります。このとき、水分が蒸発するときにその部分が冷やされます。水は水蒸気になる(蒸発する)ときにたくさんのエネルギーが必要で、そのエネルギーを奪っていくのです。試しに水を入れた紙の器を火にかけてみましょう。中の水が沸騰して蒸発している間は紙が燃えないほどです。
紙皿に入った水を沸騰させる実験動画
※十分に安全に配慮し実験を行っておりますので真似しないでください。
蒸発するときに熱を奪う。熱が奪われると冷える。もうひといき!
水は室温でもじわじわ蒸発していますが(=洗濯物が乾く)、100℃で激しく沸騰して気体になります。あんなにガスコンロで熱を与えているのに、水の温度は100℃のままですね。それだけ熱をガスの炎から奪っているということです。山に登って標高の高いところでお湯を沸かすと、100℃より低い温度で沸騰します。気圧が低いと、水(液体)は低い温度で沸騰するのです。
図1に気圧と水が沸騰する温度の関係を示しています。気圧が低いと低温で沸騰することがわかります。逆に、気圧が高いと沸騰する温度が高いことがわかります。(圧力鍋も同じ原理を利用した調理器具です。)
図1 気圧と水の沸点の関係
でも、水ではどんなに頑張っても0℃以下にならなさそうですね。これでは氷はできません。もっと冷たくするために、水よりいいものが何かないでしょうか?
事務所で見つけてきたもの(市販の液化ブタン)の沸点を調べてみました(写真1)。
写真1 市販液化ブタンの温度(大気圧)
ブタンは真空にしなくても大気圧で蒸発してかなり冷たいことがわかりました。他の物質の沸点についても教科書で調べてみました(表1)。
表1 大気圧での沸点
実験ではブタンガスの温度は-7℃でしたが、教科書では-0.5℃になっています。なぜ違うか調べてみたところ市販ブタンガスにはプロパンが少し入っているとのことでした。
次の章で、市販ブタンガスを使って簡単な冷却装置を作ってみましょう。
<はじめに>
1.冷凍の歴史
2.そもそも熱とは?
3.熱と温度
4.温度の話
<冷やす仕組み>
5.冷やす話 冷媒の話
6.冷やす話 蒸発の話(1)
7.冷やす話 蒸発の話(2)
8.冷やす話 蒸発の話(3)
9.蒸発した冷媒を液体に戻す
10.冷凍サイクルをつくる
<装置の仕組み>
11.圧縮機の話
12.レシプロ圧縮機
13.スクリュー圧縮機
14.スクロール圧縮機
15.ターボ圧縮機
16.蒸発器
17.凝縮器
18.膨張弁
19.実際の冷凍機