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TOP>サイエンスコラム>連載講座「低温環境の利用技術」(8)

8.凍結粉砕の基礎とその利用技術


杉の立木の凍裂状態


写真1 杉の立木の凍裂状態1)


写真1は、寒さの厳しい冬の北海道で凍結現象により、杉の立木に大きな亀裂が発生した状態を示したものです。寒冷地域に多く存在するトドマツや杉などの樹木の外側に近い辺材部分は多くの水分を含んでおり、この水分の凍結に伴う氷の体積膨張により、樹木に大きな力が働き、樹木の凍裂が起きます。

第8回の連載講座は、食品業界などで利用されている凍結粉砕技術について、その凍結粉砕現象に関わる要因とその機構そして新たな利用技術について紹介します。

(1)凍結粉砕

-30℃程度に凍結させたバナナは、硬くなり釘などを打つことができます(写真2)。また、-40℃程度でバラの花を凍結させると簡単に粉々にできます(写真3)。このように物質は、低温になると硬化し、さらには脆くなり粉砕しやすくなります。この現象を凍結粉砕または低温脆性 ぜいせい と言い、様々な物質を粉砕する技術を凍結粉砕と言います。


写真2 凍結バナナで釘を打つ 写真3 バラの花の凍結粉砕状況


(2)凍結粉砕の基礎

凍結粉砕技術に関連する冷却剤、氷の特性の挙動について以下に説明します。


(a)多様な冷却材
凍結粉砕に利用される冷却剤の温度帯は、図1に示すように、-25℃から -196℃と幅広い温度範囲であり、凍結粉砕物質の脆化温度などに基づいて、様々な冷却剤が使い分けられています。液体からの蒸発熱(潜熱)や温度差による顕熱を利用する冷却剤としては、液体窒素(蒸発温度 -196℃)や液化炭酸ガス(-50℃程度)、さらに昇華熱(固体→気体)を利用するドライアイス(-78.5 ℃)があります。また、温度差に基づく顕熱を利用するブライン水溶液(溶質濃度による凝固点降下を利用する)として、塩化カルシウム水溶液、プロピレングリコール溶液やエチレングリコール水溶液などがあります。さらに、冷凍用蒸気圧縮式冷凍機蒸発器の冷熱を直接利用する場合もあります。

冷却剤の種類と温度の概要


図1 冷却剤の種類と温度の概要


(b)氷の破壊強度
食品素材の含水率は40%~80%程度と大きく、含まれる水の状態は図2に示すように多様な水の状態を有します。このような含水物質の凍結粉砕においては氷の破壊強度も重要になります。市販の透明な角柱氷に直角な圧力をかけた場合の破壊強度と温度の測定例2)を図3に示します。温度の低下とともに氷の破壊強度は-10℃から単調に増加します。

物質周りの水の状態

図2 固体粒子周りの水の状態



水溶液の凍結曲線

図3 角柱氷の破壊強度と温度の関係


図4は、含水物質を凍結させた場合の凍結物質の状態を示したものです。多くの固形物は常温では 塑性 そせい 的性質を有しますが、低温になると塑性的性質がなくなり、硬化して脆性化するようになります。また、水分に着目すると、凍結点でその体積を9%程度増加して氷結晶を生成します。この体積増加は、膨潤圧力を生じて凍結物質内に割裂(ひび割れ)を生じさせます。さらに、図2に示した固形分内の水分は様々な状態にあり、まず自由水が凍結して、その氷界面に未凍結水が移動して凍結し、氷結晶の肥大化が起こります。このようにしてできた凍結物質は、常温状態の破壊強度よりも小さな力で破壊できます。このことを利用したものが凍結粉砕です。

含水物質の凍結状況


図4 含水物質の凍結挙動


(c)無水物質の低温脆性
図5は、温度変化によって炭素鋼の強度(シャルピー衝撃値*1)と温度の関係を示したものです。図中の”%C”は炭素含有割合を示しています3)。炭素含有量によって強度変化の様子は異なっているものの、何れの炭素鋼も低温になると強度が大きく低下していることが分かります。常温(20℃) における強度(最大値)と、低温における強度(最小値)の中間値になる温度を脆化温度と言います。0.04%Cの炭素鋼と0.11%Cの炭素鋼の脆化温度は何れも-40℃です。このように低温になると強度(衝撃値)が低下するのは、金属原子の運動エネルギーが低下して金属原子間の滑りが困難になることに起因しています。
一方、プラスチック(高分子化合物)であるポリ塩化ビニルやタイヤに使用される加硫化ゴムの脆化温度は、-50 ℃程度、ポリエチレンは -55℃程度、シリコン樹脂は -100℃程度とされています。

炭素鋼の強度と温度の関係


図5 炭素鋼の強度と温度の関係2)



*1:シャルピー衝撃試験の結果、試験片の破壊に要した衝撃エネルギーを試験片断面積で除した値です。なお、シャルピー衝撃試験機とは、試験片に対し衝撃を与えることにより物質の脆弱性を試験するための装置です。

(3)凍結粉砕技術

前述のように、多くの物質は温度を下げるとその組織構造の強度が低下し、脆性化する傾向があります。ここでは、食品などの含水物質の低温における凍結粉砕技術について説明します。

(a)食品素材などの凍結粉砕技術
食品素材は、常温では塑性的特性を有するので、粉砕加工が難しいものが多いと言えます。
食品素材の含水率は最大90%程度のものもあり含水率が高い特徴を有しており、凍結温度下で生成した氷結晶が凍結粉砕に大きく影響します。食品素材に対する凍結速度があまり大きくない場合は、氷結晶の成長とともに、食品成分物質の濃縮を伴いながら共晶点*2 に達すると、氷と食品成分物質が共存する状態となります。この共晶点では、固体相のみであることと氷結晶化による体積膨張による内圧の増加そして低温脆性化により、凍結粉砕が起こります。また、粘性の大きな食品素材の低温化や超急速凍結では、食品素材のガラス化現象*3 が起こり、凍結粉砕が可能となります。

食品素材の凍結粉砕の特徴としては、
①常温では粉砕が難しいものの粉砕加工が可能
②タンパク質などの変性防止
③気化しやすい成分の保持
④素材の酸化防止
⑤臭気の防止
⑥微粉末の生成が容易

などが上げられます4)

食品の凍結粉砕の実施例としては、
・香辛料(コショウ、ワサビなど)
・調味料(昆布、豚骨、カツオ節など)
・穀類(米、小麦など)
・野菜(ピーマン、ニンジン、トウモロコシなど)
・嗜好品(コーヒー豆、緑茶、レーズン、果実など)

があります。

*2:共晶は融液状態にある複数の混合物が凝固するときの凝固形態、結晶組織の一つで、液相が複数の固相を形成したときにできる結晶であり、共晶点はその場合の凝固温度を意味します。
*3:融液物質の温度を下げていくと結晶化せずに粘度を増し、明確な凝固点を示さずに分子の配列は液体に近い状態で固化する現象を意味します。氷の場合は、非結晶氷(アモルファス氷)になります。

凍結粉砕装置の概要を図6に示します5)。まず食品素材をホッパーに充填し、液体窒素と混合して、急速凍結を行い、最終的に縦型に配置した粉砕機で微細片に粉砕します。食品素材によっては、水平ベルトコンベア上の食品素材を液体窒素や液化炭酸ガスなど冷却剤の散布で凍結粉砕する水平配置の装置もあります。 また、熱可塑性プラスチックなどの凍結粉砕にも図6で示す装置が利用されます6)。プラスチックの種類によっては、凍結粉砕の起こりやすい温度が異なることに着目し、異質混合プラスチックを、凍結粉砕温度別に選別回収することも可能となり、プラスチックの再生利用にも、凍結粉砕が役立つことになります。また、粉砕しづらい古電線被覆材や古タイヤなどにも凍結粉砕が利用されています。さらに、薬品、化成品やセラミックなどの難破砕材を凍結粉砕し、粉砕された微細な各種の原料は混合しやすいことより、混合した複合材料として、薬品、塗装品、接着剤および樹脂の改質に活用されています。

凍結粉砕装置の概要

図6 凍結粉砕装置の概要


図7は、各種菌体、細胞および薬品を凍結粉砕する場合の装置概要を示しています。これは、菌体等の懸濁液を液体窒素により微細凍結粒とします。この微細凍結粒をショット材として、噴射ガスガンにより噴射・衝突粉砕するものです。
菌体の急冷による凍結膨張に基づく細胞膜の破壊および衝突板への衝突に伴う衝撃力で、凍結粒の粉砕が行われます。この方法は、有害菌等の死滅,細胞内の有用物質の抽出などが、衛生的な低温状態で短時間に行えるという特色を有しています6)

懸濁液の凍結粉砕装置の概要

図7 懸濁液の凍結粉砕装置の概要


インスタントコーヒーなどの粉末状食品の製造工程において、コーヒー豆などの顆粒物質の粉末化には、図8に示すような小型の凍結粉砕装置が用いられます。コーヒー豆などの顆粒物質に液体窒素を混合して、高速回転している粉砕機に投入し、水分の結晶化による膨潤圧力と粉砕機翼のせん断力により、微細なコーヒー粉末などを生成するものです。

コーヒーなどの凍結粉砕機の概要

図8 コーヒーなどの凍結粉砕機の概要


(b)食品素材などの凍結磨砕
凍結磨砕は、冷却剤として液体窒素などを用いず冷凍庫などの温度帯である-20℃から-40℃の低温領域を利用することで、投入ランニングコストの削減や低温装置構造の単純化を図るものです7)。まず、食品素材を冷凍機などで-20℃~-40℃に凍結させて、図9に示す凍結解砕装置(フローズンカッター)により細片化した凍結試料を凍結磨砕装置(図10)でさらに微細な粉末します。食品素材は、外気と遮断された低温状態で凍結磨砕されます。最終的に食品素材の温度は、5℃以下に制御され、熱による素材の変性は抑えられます。すなわち、脂肪分の酸化や揮発成分の散逸がなく、良質な粉末食品素材が得られます。 凍結磨砕法が適用可能な食品材料としては、・常温で粘性により微細化できない素材(レーズンなど)、・脂肪酸化され易い油糧種子(ゴマなど)、香辛料(コショウなど)、・褐色化する青果物(リンゴなど)そして通常廃棄されている魚介類や家畜の骨など、非可食の部分があります。

凍結粉砕装置(フローズンカッター)の概要

図9 凍結解砕装置(フローズンカッター)の概要


凍結磨砕装置の概要

図10 凍結磨砕装置の概要


(4)樹木の凍裂

寒冷地の植生に代表される針葉樹の杉やトドマツなどの立木が、寒さのために大きな音を立てて裂けること(割裂)があり、これを凍裂(Frost cracking)と呼んでいます。この凍裂現象は早朝の低温時に発生し、音は聞こえるが実際に凍裂の瞬間を観察した人はいないようです。 写真4は、北海道などで植生されているトドマツが凍裂したものです8)。この凍裂の割れ目は春になると閉じますが、翌冬になれば閉じた表皮は簡単に引きちぎられ、幹の表面には割れ目が現れます。このような木は幹の内部にも写真4に示すような傷跡が残り、木材としての品質は低下します。
凍裂にあった樹幹の多くは、図11に示す局部的に水分の多い水喰部分(Wet wood)で凍裂が発生しています。この含水率の大きな水の状態は過冷却状態にあり、外気温度が-20℃~-40℃の 低温になり、何かの刺激で過冷却状態が解放されて氷結晶が発生するとその体積膨張圧が発生して、樹木が凍裂することになります。凍裂部分は、樹幹中心よりも表皮の近くで発生して、写真5に見られるように樹幹中心へ亀裂が進行することになります8)

トドマツの凍裂の状態

写真4 トドマツの凍裂の状態


トドマツの凍裂部分

写真5 トドマツの凍裂部分


樹幹の高さと凍裂亀裂の幅および水喰い面積

図11 樹幹の高さと凍裂亀裂の幅および水喰い面積

(5)コンクリート構造物の凍結破壊技術

寒冷地域では、岩盤内水分の凍結-融解の繰り返しで破砕風化が進行し、大規模崩落を引き起こすことがあります。この凍結破砕現象は、水分の氷結晶への相変化に基づく約9%の体積膨張圧力と逃げ場を失った氷点下でも残存する間隙水(図2参照)の圧力上昇による微視的な破壊の進行によるものです。
写真6は、溶結凝結岩石(含水率約15%)に5℃から-18℃の温度環境に19回の凍結-融解を繰り返した場合に、発生したひび割れ破断面を示したものです。このような凍結-融解の繰り返しにより、岩盤表面に小規模な剥離や崩壊を生み、最終的に大規模な岩盤崩壊につながる場合もあります9)

溶結凝灰岩に凍結破壊割れの状態

写真6 溶結凝灰岩に凍結破壊割れの状態


また、コンクリート構造物においては、コンクリート内部の水分が凍結-融解の繰り返しで、コンクリート表面の 膠着力 こうちゃくりょく の低下(スケーリング)、微細なひび割れ、及び表層下に点在する水分の凍結膨張によるクレータ状の窪み(ポップアウト)などの凍害が起こります。状況によっては、コンクリート構造物表面に大きなひび割れそして剥離する場合もあります。 通常、コンクリート構造物の解体には、油圧ブレーカーで打撃を繰り返して解体しますが、騒音や振動そして粉塵などの発生があり、都市部での解体作業は難しくなる状況にあります。このような問題を解決する手段として、水分の凍結膨張圧を利用したコンクリート構造物破壊技術があります。図12に示すように、コンクリートに一定間隔で削孔して円管または扁平管を挿入します。管内部には、水を注入後冷媒循環パイプに冷媒を流すことで、水の凍結による膨張圧をくさび代わりにしてコンクリート部分に亀裂を生じさせて、コンクリートの解体作業を容易にさせます10)。 写真7は、水分の凍結膨張圧を利用したコンクリートの割裂によるひび割れの状態を示したものです10)。 密閉空間において、理論上水の凍結温度は、圧力約209MPaで -22.3 ℃となり、かなりの大きな圧力をコンクリートへ印加することが可能です。

水の凍結膨張圧を利用したコンクリート破壊の原理

図12 水の凍結膨張圧を利用したコンクリート破壊の原理


水分の凍結膨張圧によるコンクリートの亀裂ひび割れ

写真7 水分の凍結膨張圧によるコンクリートの亀裂ひび割れ


参考文献
1)稲葉英男、福迫尚一郎、機械の研究、43巻10号(1991)、頁153
2)石本敬志、開発土木研究所、441号(1990)、頁34
3)長谷川正義、鉄と鋼、4号(1966)、頁55
4)羽倉義雄、日本食品工学会誌、10巻(2009)、頁199
5)稲葉英男、福迫尚一郎、機械の研究、43巻12号(1991)、頁362
6)稲葉英男、日本機械学会誌、99巻(1996)、頁31
7)遠藤悦雄、日本食品低温保蔵学会誌、14巻(1988)、頁101
8)酒井昭、植物の耐凍性と寒冷適応、学会出版センター(1882)、頁272
9)児玉斉明ら、日本土木学会論文集、63巻(2007)、頁29
10)鈴木信也、三輪明広、戸田建設技術研究報告、41巻(2015)、頁3

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