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TOP>サイエンスコラム>連載講座「低温環境の利用技術」(7)

7.凍結濃縮の基礎とその利用技術


コーヒー粉末とオレンジジュース


写真1は、コーヒー液を-40℃にて凍結濃縮後、生成した氷粒子を除いて乾燥させたコーヒー粉末です。写真2は、ミカン果汁を凍結濃縮後、氷粒子を除いた濃厚なミカンジュースです。凍結濃縮は、食品のように水分と構成成分が混合している場合に凍結操作により、構成成分の濃度が高まる現象を意味します。すなわち、濃厚な溶液や混合物などを得ることができます。

第7回の連載講座は、食品業界などで利用されている凍結濃縮技術について、その凍結現象の基礎から様々な応用技術について紹介します。

(1)凍結濃縮における氷結晶の生成過程

水と物質の共存状態は、水中に溶けない固体粒子が水中に分散浮遊している場合の懸濁水液(Aqueous suspension)と水に物質が溶解した場合の水溶液(Aqueous solution)があります。 凍結濃縮は、このような状態にある水分を凍結点以下に冷却し製氷後、氷結晶を分離して、物質の濃度を高めることで、高濃度の溶液を得ることになります。

我々の生活環境下で生成される氷は、図1の氷の圧力-温度状態図から理解できるように、氷Ih型の六方結晶に属します。すなわち、氷結晶は六角形の形状をしています。この六方晶の氷は、図2aに示すように、まず冷却面から氷結晶軸のa軸およびb軸方向に面的に成長します。また、氷結晶の成長への物理化学的抵抗がある場合は結晶界面を形成して、図2bのように多数の結晶粒界を伴う多結晶氷となります。さらに、冷却温度が低く、冷熱移動が大きな場合にはc軸方向に氷結晶が成長して、六角柱氷の形成となります1)

氷構造の圧力と温度の関係

図1 氷構造の圧力と温度の関係


図2a  六方晶氷の成長軸図2b 多結晶氷


(2)水と物質の共存状態における凍結現象

水と物質が共存する場合の凍結濃縮現象について、その共存状態に応じて概説します。


(a)懸濁水液の凍結濃縮
懸濁水液は、固体粒子が水中に分散混合しています。図3に示すように下面からゆっくり凍結させると、まず冷却により多結晶氷が面的に広がり、冷却面温度の低下とともに図2aに示すようにc軸方向へ懸濁物質である固体粒子を排斥しながら氷界面が成長することになります。固体粒子の性質や水の状態などによりますが、通常氷成長速度が 約2mm/h以下であれば、固体分子を巻き込まずに氷界面が成長します。凍結濃縮では、このようにして成長した氷結晶を分離することで、懸濁物質の濃度が高い濃縮が可能となります。

混濁物質粒子と水の混合水液の凍結挙動


図3 混濁物質粒子と水の混合水液の凍結挙動


(b)水溶液の凍結濃縮
水溶液は、溶質が水に溶解した状態にあるので、(a)の懸濁水液の凍結とは様相が異なります。水に溶質が溶解している場合は、溶質の濃度によりその凝固温度が降下する現象(凝固点降下、ラウールの法則)があります。溶質1モルの溶解で凝固温度は、1.86℃低下します。例えば、10モルの溶質を水に溶解させた場合には、水溶液の凝固点は、-18.6℃になります。また、電解質水溶液では、溶解して電離したイオンと電離しない分子の溶質の合計のモル濃度に比例して凝固点降下が起こります。例えば、水に1モルのNaClを融解した場合には、完全に電離融解(NaCl→ Na+ + Cl-)するので、合計2モルの濃度になります。従って、10モルのNaClの水への溶解で、凝固温度は-37.2℃になります。

図4は、水溶液の溶質濃度と温度の関係を示したものです。まず、濃度CA、温度Tの水溶液温度を低下していくと、凝固温度A点で凝固が始まります。さらに温度を下げると凝固曲線に沿って溶質濃度の増加と凝固温度の降下を伴いながらB点へと移動します。最終的にはE点の凝固温度と溶質濃度となる共晶点において、氷と溶質を析出します。共晶点以上の濃度では、溶質と水溶液の状態となり、溶質濃度上昇とともに、逆に凝固点は上昇します。
なお、水溶液をかなり低温であるガラス転移温度*1まで超急冷すると、通常の氷結晶(氷Ih)と異なる非結晶氷*2を生成します。

*1:物質の中には、液体の状態から超急冷しても結晶化せずに、液体のようなランダムな分子配列の非結晶状態で凝固することをガラス転移といい、その転移温度を意味します。 このガラス転移は、超急冷操作でなくても水溶液の粘度が1014Pa・s以上に高まると水の拡散運動が止まった状態となり、水の凝固点以上でも起こります。
*2:アモルファス氷とも呼ばれ、規則的に配列した氷結晶とは異なり、秩序が乱れた乱雑な配列構造を有する氷結晶を意味します。

水溶液の凍結曲線


図4 水溶液の凍結曲線


(3)凍結濃縮方法について

凍結濃縮は、水と物質の混合物や水溶液から効率良く氷結晶を生成・分離して、溶質の濃度を上げることで、通常の加熱蒸発濃縮(蒸発潜熱量2442kJ/kg、25℃)よりも凍結(水の凝固熱量333kJ/kg、0℃)により投入熱エネルギーを約1/7程度に削減することができる特徴があります。
凍結濃縮法には、氷結晶の生成法により、懸濁結晶法と界面前進凍結法が普及しておりますが、最近において懸濁氷結晶を融解する凍結融解法も開発されています2)

(a)懸濁結晶法
懸濁結晶法は、図5に示すように水中に懸濁物質が拡散混合している場合や水溶液などの水分を微細な氷結晶粒子として凍結させる方法です。図4に示す凝固曲線以下に水溶液を冷却しても氷結晶が出現しない組成的過冷却*3の状態となり、その後写真3に示すような かゆ状結晶(Mushy crystal)が組織的過冷却状態にある水溶液層に点在するようになります。
一方、水に溶けない懸濁物質と混合した懸濁水液の場合は、通常の過冷却水領域が現れて、 その後写真4に示すような樹枝状結晶(Dendric crystal)*4が過冷却領域に生成します1)

*3:水溶液を冷却して凍結温度(氷点降下)に達しても凍結が起こらない状態を意味します。水を0℃以下に温度を下げても凍結しない状態である過冷却状態と区別しています。
*4:水を凍結温度(0℃)に下げても凍らない過冷却状態にある水領域へ氷が生成する場合は、まず1次枝(1次アーム)状に氷結晶が成長し、その後2次枝(2次アーム)が成長します。この氷結晶が木の枝のような形状となることから樹枝状氷と名付けられています。

混濁結晶濃縮装置

図5 懸濁水液の凍結状態


写真3 水溶液氷結晶(かゆ状氷)写真4 樹枝状氷結晶


懸濁結晶濃縮装置の概要を図6に示します。まず、果汁などの原水溶液を冷却器で過冷却状態に冷却します。この過冷却水溶液に種氷を投入して攪拌すると、微細な氷粒子が多数形成すると氷界面エネルギーの大きな小粒径氷粒子は融解消滅して、周囲温度を低下させることで、界面エネルギーの小さな大粒径氷粒子の肥大化現象(オストワルド熟成*5)で、氷結晶の選択的成長を行います(図7参照)。さらに、氷粒子と水溶液分離槽では、大きな氷粒子同士が接触すると氷結晶の拡散による焼結(Sintering)現象(図8参照)により、氷結晶の肥大化が進行して原水溶液が高濃度になり、最終的に肥大化した氷粒子と高濃度原液に分離が行われます。

懸濁水液の凍結状態

図6 懸濁結晶濃縮装置


図7 オストワルド熟成  図8 氷結晶の焼結



*5:オストワルドライプニングとも呼ばれ、結晶の融点は、ギプス・トムソン効果により、小さい氷結晶の方が大きな氷結晶よりも低くなります。その結果、温度を両者の間に保つと小さな結晶は選択的に融解消滅し、その吸熱作用により温度降下が起こり、融点の高い大きな結晶粒子が肥大化することになります。なお、ギプス・トムソン効果は、結晶の表面が曲率を持つと、小さな結晶粒子ほど内部と表面のエネルギー差が大きくなり、その融点が降下する現象です。


(b)界面前進凍結濃縮法
界面前進凍結濃縮法は、図9に示すように冷却面から氷結晶を徐々に溶質を氷界面に巻き込まないように成長させて、懸濁水液や水溶液の濃縮を行う方法です。
図10は、界面前進凍結濃縮装置の概要を示したもので、まず清水を流入させて冷却面に氷層(アイスライニング)を形成させて、過冷却状態の回避と冷却面へ溶質の付着防止を目的とします。なお、氷層の熱伝導率は、λ=2.2 W/(m・K)と水のλ=0.582 W/(m・K)に比べて、約3.8倍大きいことから熱移動を促進する効果がアイスライニングにはあります。 続いて、果汁などの原液をポンプで循環して、冷却温度を降下させて氷層の成長を促進することで、原液濃度を高めることで濃縮を図ります。所期の原液濃度となった時点で、外部へ濃縮原液を回収することになります。

図9 界面前進凍結濃度の概要   図10 界面前進凍結濃縮装置の概要


(c)凍結融解法
凍結融解法は、図11の概要図に示すように、容器側面と底面を冷却して壁面に氷層を成長させて原液の濃縮を図ります。氷層の成長とともに、高濃度の原液は上部へ移動します。目的の原液濃度に達した時点で、容器を反転させて、壁面を加熱することで氷層を融解剥離させることで、下部にある高濃度の原液を外部へ回収することになります。凍結融解法は、原液を強制的に循環する必要なく、比較的歩留まりが良く濃縮が行えるとされています。

凍結融解法の概要

図11 凍結融解法の概要


(4)凍結濃縮技術の応用

前項で3種類の凍結濃縮法についての概要を述べましたが、ここでは具体的な利用例について紹介します。

(a)食品の凍結濃縮3)
食品への凍結濃縮の利用は、加熱蒸発濃縮における加熱臭の発生、芳香成分の分解・散逸、退色、タンパク質の変性や栄養分の減少などの品質の低下を避けることができます。また、低温による微生物の増殖を抑制することができ、食品の保存性が高まる効果も期待できます。

食品の凍結濃縮は、食品の種類などに応じて、前項の3種類の凍結濃縮法が使い分けられています。
具体的には、
①柑橘類、リンゴなど果汁の濃縮に懸濁結晶法が従来から利用されていましたが、最近では効率的側面から界面前進凍結濃縮法も利用されています。
②インスタントコーヒーの製造においては、凍結加熱乾燥の前段に凍結濃縮法が採用されています。加熱蒸発熱に比較して凝固熱量が少ないことより、ランニングコストの低減を図ることができます。濃縮液の芳香成分の保持も高く、45%程度の濃縮が可能とされています。
③ビールの凍結濃縮は、貯蔵熟成時に澱の沈降が早まり、熟成期間を短縮できるようです。また、欧州では凍結濃縮したビールをもとの濃度に還元する方法も提案されています。 また、日本酒を-17℃程度で凍結濃縮させ、アルコール濃度を上げたり、甘みと旨味を濃縮させた凍結濃縮酒も製造されています。
④保存食であるピクルス製造には食酢が使われて、漬け込まれた野菜や果実の水分により食酢は薄まります。この希釈された食酢の濃度を上げるために、凍結濃縮法が利用されています。

(b)海水の淡水化への凍結濃縮4)
海水の淡水化は、逆浸透膜を利用した方法が通常行われていますが、懸濁結晶法に基づくオストワルド熟成により、極力大きな氷塊を生成することで、氷表面に溶質(NaClなど)の付着を少なくして分離効率を高めています。得られた氷塊を融解することで、飲料水を得ることも可能です。また、氷塊の融解で得られる冷熱は冷房などにも利用されます。また、カルシウムやマグネシウムの硬度120 mg/ℓ 以上の硬水を凍結濃縮後生成した氷層を融解して軟水(世界保健機関基準の硬度120 mg/1ℓ 以下)を得ることも可能です。さらに、放射性物質の混合水を凍結濃縮させて、放射物質混合水の減容化による保存も計画されています。

(c)汚泥の凍結濃縮
下水汚泥などの固形物は、図12に示すように固形物(有機物や無機物)周囲に様々な状態で水分が保持されています。下水汚泥などは、水中にこのような固形物が拡散混合しており、凍結濃縮で汚泥中の固形分濃度を高めてから氷成分を分離することで、最終的に焼却や埋め立てで処分を行います。すなわち、前記図3に示すように凍結速度を遅くして、生成した氷界面へ固形分が取り込まれないようにします。凍結の進行とともに固形物同士が凝集して粗大化し、粗大化した固形分は水和性がなくなり、氷層を融解することで沈降して分離することになります。

図13は、汚泥排水を凍結濃縮して、分離した氷を貯氷・放熱装置に蓄冷熱して、空調・プロセス冷房冷却そして融解水をリサイクル水として再利用します。このように凍結濃縮技術の新たな技術展開が可能となります5)。また、メッキや苛性ソーダなどの無機廃液処理に凍結濃縮が利用されて廃液の減容化に寄与しています。

固体粒子周りの水の状態

図12 固体粒子周りの水の状態


汚泥の凍結濃縮の利用

図13 汚泥の凍結濃縮の利用


参考文献
1)稲葉英男、福迫正一郎:低温環境下の伝熱現象とその応用、養賢堂(1996)、頁83、325
2)中西ら:凍結及び乾燥研究会誌、32巻(1986)、頁1
3)福谷敬三、隅田孝司:冷凍、63巻(1988)、頁83
4)白井義人:ケミカル・エンジニアリング、5巻(1995)、頁41
5)佐藤浩:冷凍、74巻(1999)、頁32

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