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6.昇華現象を伴う凍結乾燥の基礎と応用


「ところてん」と「寒天(かんてん)」

写真 「ところてん」と「寒天」


写真は「ところてん」と「寒天」を示したもので、天草やオゴノリなどの紅藻類を日光に晒して漂白し、煮溶かして固めたものが「ところてん」となり、さらに凍結した後に低温状態で自然乾燥したものが「寒天(かんてん)」として、我が国の特産物となります。

「ところてん」は既に奈良時代に食用として供されており、江戸時代(1650年代)冬期に偶然戸外へ捨てた「ところてん」が寒気で凍った後に日向で乾燥すると、鬆(す)の入った乾物が出来上がり、これを「寒天」と名付けられたそうです。「ところてん」を凍らして、日向で乾燥する際に、外気が低温低湿状態であれば、氷は昇華蒸発で乾燥が起こり、外気温がプラスの条件であれば、氷は融解して水として排出して乾燥が行われます。

今回の連載講座は、食品業界などで活用されている昇華現象を利用した凍結乾燥について、その基礎から応用について解説します。

(1)昇華現象と自然現象

(a)昇華現象とは
大気圧常温下で、ドライアイスが炭酸ガスまた防虫剤の樟脳(しょうのう)が気化拡散する現象のように固体から気体へ相変化する現象を昇華現象と呼んでいます。図1は、水の状態を示したもので、水の三重点(温度:0.01℃、圧力:0.61kPa)以下の低温・低圧条件では、昇華現象が起こります。氷の状態から水蒸気の状態へ相変化する現象を昇華蒸発(Sublimation)そして水蒸気から氷へと相変化する現象を昇華凝結(Deposition)と区別されています。

水の状態の概要図(片対数グラフ)

図1 水の状態の概要図(片対数グラフ)


図1の左下に示す昇華曲線より若干水蒸気圧力の高い領域に過冷却水曲線(図中の破線)があります。この過冷却水曲線と昇華曲線の間では、水は過飽和な過冷却水の状態で存在しますが、不安定な状態となります。まず湿り空気の状態A(TA,PA)から冷却を行うと水蒸気圧線に達すると液状水(または過飽和な水蒸気を形成する場合もあります)となり、さらに冷却を進めると融解曲線にて氷が生成(過冷却水を形成する場合もあります)して温度TBの低温状態の氷となります。この状態から水蒸気圧を下げて、過冷却水曲線を越えると不安定な過冷却水が形成され(過冷却水を伴わず、氷が昇華蒸発する場合もあります)、そして水蒸気圧PBに減圧して昇華曲線に達すると昇華現象により水蒸気へと相変化します。
自然界で起こる昇華現象の代表的なものに、上空での雪や雹(ひょう)の生成があります。

大気対流圏における高度と温度・気圧の関係

図2 大気対流圏における高度と温度・気圧の関係

 

(b)雪結晶の生成成長と昇華現象
図2は、大気対流圏における高度と温度そして気圧の関係を示したものです。ここでの気圧は全圧Pであり、乾燥空気の分圧Paと水蒸気の分圧Pvの和となります。ジェット旅客機は通常高度10km前後を飛行し、その周囲の空気温度は-50℃程度の低温環境となります。この対流圏では、雲の発生がみられて、雪結晶の生成・成長が盛んに行われています。雲は水蒸気が凝結し、直径数μm~数十μmの微細な水滴(雲粒)となったもので、その水滴は-40℃位まで凍結せずに過冷却雲粒の状態で空中を浮遊しますが、過冷却水滴がクラスター(集合体)を形成して氷結晶となります。また、-10℃程度でも氷核物質の存在で容易に氷結晶が生成されます。ここで、微細な過冷却雲粒や微細な氷粒子から大きな氷粒子の成長について図3の氷粒子(結晶)成長モデルをもとに説明します。

氷結晶の昇華現象による肥大化


図3 氷結晶の昇華現象による肥大化


大気環境の水蒸気圧が微細氷粒子の飽和水蒸気圧Psと等しい場合には、Psはギブス・トムソンの関係式で以下のように表されます。

ギブス・トムソンの関係式



ここで、Ps∞:平滑な氷面の飽和水蒸気圧、σ:氷の表面自由エネルギー、v:水分子の体積、r:氷粒子の半径、k:ボルツマン定数、T:絶対温度です。なお、球形の氷粒子の表面エネルギーは最小となります。氷粒子の半径 r が1μm以下の場合は、指数項が1に漸近し、近似的にPs = Ps∞として扱えます。周囲環境の水蒸気圧Pv が未飽和(<Ps)の場合は、氷粒子表面から昇華蒸発が起こり、氷粒子が小さくなります。

ここで、具体的に、微細な水滴や氷粒子の間の物資移動(水分)に関する現象について詳しく説明します。まず図3(a)のように、微細な過冷却水滴と氷粒子が近くに存在していると、図1の水の状態に示しましたように、過冷却水曲線と昇華曲線の間にある微細な過冷却水の水蒸気圧が氷表面の飽和水蒸気圧よりも高いために、過冷却水滴表面から蒸発が起こり、一方微細氷表面では水蒸気の昇華凝結が起こり、氷粒子径が増大することになります。

一方、図3(b)に示すように、粒子径の小さな氷粒子と大きな粒子径の氷が共存する場合はどのようになるでしょうか。上式の関係から氷粒子径 r が小さいほど、飽和水蒸気圧Psが大きくなり、小さな氷粒子の表面から昇華蒸発により氷粒子が消滅することになります。なお、大きな粒子径の氷は昇華凝結により、その粒子径は増加することになります。
さらに、図3(c)に示されるように、先の尖った凸凹の氷表面では、その先端部の水蒸気圧が高いために、昇華蒸発により先端部が滑らかな丸みを帯びてきます。一方、窪みの氷表面の水蒸気圧は小さいために、昇華凝結により窪みは減少することになります。 このように、雲の中では氷結晶は成長して雪結晶となり、その雪結晶の合体を繰り返しながら降雪となります。大きく成長した氷結晶の直径が5mm未満のものを霰(あられ)、それより大きくなると雹(ひょう)と呼ばれています。なお、地表近くの大気の温度が0℃以上の場合は、氷結晶が融解して、雨として地上に落下します。

地表の積雪層の表面が夜間の放射冷却により温度が降下すると、その下部の温度の高い土壌層からの入熱により、雪層の下部にある雪結晶の昇華蒸発が起こり、上部の低温雪結晶は昇華凝結により雪結晶の粗大化が起こり、下部の雪層の強度が低下して雪崩の原因になると言われています。また、地表近くが-15℃以下の低温になると雲の中の雪結晶の生成と同じ原理で、非常に微細な氷結晶の塊が空気中を浮遊し、その氷結晶塊に太陽光線が当たって輝く、ダイヤモンドダスト(インターネット上で「ダイヤモンドダスト 画像」で見ることができます)が見られることもあります。このように、上空での雪の発生そして成長には昇華現象が大きく関わっていることになります。



(2)天候を利用した凍結乾燥食品

我が国の伝統的食品である寒天(前掲の写真)は、低温乾燥状態にある冬季の天候を巧みに利用しています。天草などの紅藻草を日光に晒して漂白後、90℃前後で溶かし、さらに30℃前後に冷却すると固まり、「ところてん」となります。この「ところてん」を適当な形に成型し、これを戸外に並べ、1週間位-5℃~-10℃の寒気で緩慢凍結させます。日中の外気温が氷点下そして低湿度の気象条件の場合は、日射などの入熱で氷界面から昇華蒸発が起こり、鬆(す)の入った乾物となります。また、外気温が5℃~10℃になると「ところてん」内の氷が融解して液状水となり排出して寒天質と水の分離乾燥が行われます。このように、寒天は凍結させて生成した氷層を昇華蒸発や融解現象で乾燥がなされ、多孔質の寒天が生成されます。この寒天は角型、糸型や粉末状のものがあり、乾燥状態のために長期保存が可能で、ご飯に炊き込んだり、水で戻してみそ汁やスープなどと混ぜて食用に供されます。
自然環境を利用した凍結乾燥食品には寒天の他に図4の写真に示す凍り豆腐(高野豆腐)などがあり、熱変性防止や腐敗防止機能を有する保存食品として従来から活用されています。

高野豆腐

図4 高野豆腐



(3)産業分野における凍結乾燥技術の応用

(a)真空凍結乾燥装置
凍結乾燥(フリーズドライ)は、低温・減圧条件下で水分を除く乾燥法であり、熱変性防止、化学反応抑制、腐敗防止、常温保存可能などの特徴があり、食品分野(インスタント食品、肉・魚介・海藻類など)、医療品・試薬(抗生物質・酵素・ワクチン、試薬など)、生細胞の保存(微生物、各種細胞など)、その他(文化財の保存、バイオ関係、高分子・セラミック樹脂など)に利活用されています。ちなみに、凍結乾燥食品の販売実績は2017年には約5億食が出荷されて、大きな市場を形成しております。

凍結乾燥の概念図


凍結乾燥の概念図


図5 凍結乾燥の概念図 凍結乾燥装置の概要


図5は、一般的に利用されている真空*1凍結乾燥装置の概要を示したものです。 真空凍結乾燥装置には、製品を凍結させる凍結工程、水の3重点以下の条件のもとで昇華蒸発による乾燥工程そして乾燥終了後にコールドトラップ内に生成した氷・霜の融氷工程で構成されています。 まず、被乾燥物の下部ある冷却棚に冷媒を流して-40℃程度で被乾燥物の水分を凍結します。 次の乾燥工程は、コールドトラップ冷却工程で真空乾燥室内に発生した水蒸気を冷却して昇華凝結により霜や氷の状態で水分を除去することで、真空ポンプへ水蒸気の混入を防止します。真空排気工程では、真空ポンプを作動させて、真空乾燥室を13 Pa(-40℃の飽和水蒸気圧)以下に減圧して、被乾燥物の氷を昇華蒸発させて乾燥します。同時に昇華蒸発を誘発させるために、加熱棚に温熱媒体を流して被乾燥物の下部から伝導伝熱そして上部から放射伝熱により、氷の昇華蒸発熱(約2820kJ、氷の融解熱と水の蒸発熱の合計)を与えます。最後の融氷工程では、コールドトラップの冷却面に堆積した霜や氷を融解して水として外部へ排出させます。凍結乾燥した被乾燥物は、真空凍結乾燥装置から取り出すことになり、その後新たな被凍結乾燥物を挿入するバッチ式となります。凍結乾燥物は、内部の水分が凍結後昇華蒸発により水分が取り除かれるために、多孔質(Porous)な三次元構造となります。

第4回のサイエンスコラムで説明しましたように、土壌中の水分を徐々に凍結させますと周囲に存在する水分の補給によりアイスレンズとして大きな氷塊の成長となります。このように凍結速度により生成される氷の大きさが変わります。冷却温度を-1℃~-4℃の最大氷結晶成長帯でゆっくり凍結した場合には氷成長界面への水の補給が大きく、比較的大きな氷塊が生成されます。この場合には、被乾燥物は空隙の大きな構造となります。一方、-50℃以下の低温で急速に凍結した場合は水分の移動が少なく、微細な氷粒子の生成となり、凍結乾燥後の被乾燥物は微細な空隙を伴う多孔質体となります。

マグロの凍結温度と空隙の表面積

図6 マグロの凍結温度と空隙の表面積


図61)は、マグロを凍結乾燥させた場合の凍結温度と、氷の昇華蒸発により形成された多孔質空隙の比表面積の関係を示したものです。凍結温度の低いものほど、急速凍結となり、微細な氷結晶が多数生成されて、空隙の表面積が増加することが分かります。しかしながら、図71)に示すように大きな低温条件における急速凍結はマグロ多孔質層の空隙表面積の増大となり、その結果時間の経過とともに過酸化物価*2が大きくなり、マグロの油分の酸化劣化をもたらし、人の健康をそこなう恐れが出てきます。

マグロの保存日数と過酸化物化


図7 マグロの保存日数と過酸化物化


*1:真空の定義として、通常の大気圧は105 Paを示しますが、空間の中でこれより低い圧力が真空状態で、日本工業規格(JIS)では、真空を圧力範囲で5つに区分されています。
・低真空:圧力105 Pa~102 Pa、・中真空:圧力102 Pa~10-1 Pa、・高真空:圧力10-1 Pa~10-5 Pa
・超高真空:圧力10-5 Pa~10-8 Pa、・極高真空:圧力10-8 Pa 以下
*2:過酸化物価(POV)は、油脂中の過酸化脂質量で、油脂1kg中の過酸化物によりヨウ化カリウムから遊離されるヨウ素量のミリ当量数(meq)で表します。


(b)医療・生体分野における真空乾燥技術
特殊な凍結乾燥の例である医療分野では、血小板(血液に粘性を持たせて出血を減少させる機能を有する)などの生細胞を凍結乾燥させて保存し、必要な時に輸血として利用されています。この場合の凍結乾燥は、凍結温度や水蒸気圧(真空度)の調整そして凍結保護物質(グリセリン、トレハロースなど)の添加による細胞と保護物質の水素結合ネットワークの形成により細胞の生存率を高める工夫がなされています。

さらに、絶滅の恐れのある希少な野生動物の種を残すために、凍結乾燥技術を使い、精子を保存して人工授精に活用する「配偶子バンク」が設立されています。この方法は精子に特殊な凍結保護物質を加えて急速凍結させて、減圧下で生成した氷を昇華蒸発により乾燥させます。普通の冷蔵庫で保存後、精子に水を加えて人工的に卵子と受精させ、受精卵を雌の卵管に移植して子を誕生させます。この方法によれば、普及している液体窒素を使う保存法に比べ、高額な施設を必要とせずに、その維持費も安価と言えます。ラットの精子を凍結乾燥により5年間保存後、人工授精で子を誕生させた実績があります。

(c)溶液の凍結乾燥技術

溶液の凍結乾燥装置と乾燥状態


図8 溶液の凍結乾燥装置と乾燥状態


溶液の凍結乾燥は、液体中の固形分と水分を凍結し、真空による昇華蒸発現象を利用して、熱処理の難しい抗生物質などの医薬品などの水分を除去するものです。乾燥容器内では、乾燥物の微粉飛散、壁面への付着、さらに凍結に際しては過冷却現象が起きます。これらの凍結乾燥の問題点は、図82)に示すように、凍結真空円筒チューブ内壁にアイスライニング(厚さ0.5mm程度の薄い氷層)を設けて解決しています。図8に、密閉形シェルチューブ凍結乾燥機の作動原理を示します。まず、円筒チューブ内に清浄水を満たし、冷凍機よりの二次冷媒(ブライン)により乾燥円筒容器を冷却し、円筒チューブ内壁に約0.5 mmの氷膜としてライニングを形成します。次に試料液を注入し、氷膜上に凍結層を形成した(図8の上の写真)後、円筒チューブを真空操作することにより、試料の真空蒸発乾燥を行うと同時に、内壁に形成された氷膜も昇華蒸発し、内壁に乾燥物の付着が起こらず、チューブ底板の開放により、乾燥物が自然落下します(図8の右下の写真)。試料の投入前に形成された氷膜が結晶核となり、試料液の過冷却が解消され、一様な針状結晶がチューブ面より中心に向かって形成されます。このように液体凍結乾燥は、アイスライニングの形成により、乾燥物の冷却面への付着防止そして過冷却解消を図っています。

(d)常圧凍結乾燥技術
通常に利用されている真空凍結乾燥装置は、水の昇華蒸発曲線以下の低温および真空減圧することで操作されますが、真空状態とする代わりに被乾燥試料の凍結点以下に温度設定した低温空気をデシカント剤*3など除湿した低水蒸気圧の乾燥した空気を乾燥室へ流入して、凍結層を昇華蒸発による常圧で乾燥することが可能となります。この常圧凍結乾燥法は、真空凍結乾燥装置を必要としない省エネルギー設備となる乾燥法で、今後の展開が期待されております。図93)は常圧凍結乾燥装置の概要を示したものです。まず、凍結乾燥装置内の被乾燥物を冷却凍結させて、その後デシカント装置による除湿した低露点空気と加熱操作により昇華蒸発乾燥を行います。昇華蒸発した水蒸気は空気冷却器により着霜・製氷させて、最終的に除霜・融解により外部へ排出することになります。


常圧凍結乾燥装置の概要


図9 常圧凍結乾燥装置の概要



*3:デシカント剤は空気中の水分を吸着剤(デシカント、ゼオライトや高分子収着剤など)に吸着させて除湿する乾燥剤です。回転ロータ式デシカントシステムでは、-60℃程度の低露点(低蒸気圧)の乾燥空気の生成が可能です。

 

(e)冷凍庫内での冷凍食品の袋が膨張する現象
冷凍庫内の冷凍食品の袋が大きく膨らむ現象が見られることがあります。冷凍庫の開閉などで庫内温度が上昇変化すると、冷凍食品の表面に形成されている細かな氷が昇華蒸発して、袋内空気体積の膨張(氷から水蒸気への体積変化)により袋が膨らみます。他に、冷凍食品袋の体積膨張の原因として、冷凍庫ドアの開け閉めにより、20℃程度の空気が庫内に流入し、-18℃に冷却されると庫内の圧力は瞬間に最大13%も降下します。この減圧で同袋は膨らみますが、その後冷凍庫内圧は徐々に大気圧に戻り袋も徐々に収縮して元の状態に戻ります。しかしながら、袋にピンホール(10μm~20μm)があるとこのピンホールを通じて、空気が入り込み袋の収縮が抑制されます。冷凍庫のドアの開閉が繰り返されると袋の膨張も徐々に大きくなります。袋のピンホールが非常に小さい場合には空気の流入がなく、また大きい場合には空気の出入りが自由となり、いずれも袋の膨張が起こらないとの報告があります4)

参考文献
1)大畑住江:日本食品工業会誌、14巻(1967)、頁241
2)小林正和:New Food Industry、32巻8号(1990)、頁17
3)荒木徹也、上西浩史:「凍結乾燥の技術動向」、冷凍、80巻936号(2005)、頁857
4)鳥羽茂:冷凍食品エフエフプレス、4巻(2017)、頁3

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