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カーリング第5回

スウィーピングは氷をこする?削る?


カーリングには、驚きや不思議が一杯つまっています。これまでお話しました、デコボコの氷面や重さ20kgのストーンも驚きですが、なんといっても、代表格はスウィーピング(sweeping)でしょう。ホウキやデッキブラシのような道具で氷を全力でこする選手の姿は、ちょっとコッケイにさえ見えますが、実はこのスウィーピングこそカーリングのもっとも特徴的なテクニックです。なぜなら、これによってストーンの滑る方向や距離を変えるのですが、アスリートの手を離れた後に方向や距離を変えることができるスポーツはカーリング以外にないからです。

スウィーピングは、もともとはストーンの前にあるゴミや氷屑を除くために行われていたようです。しかし、氷表面をこすると摩擦熱による温度上昇で氷がより滑りやすくなることが認識されてからは、意図的にストーンの動きをコントロールする重要なテクニックとなりました。つまり、スウィーピングすると、温度上昇によってストーンの減速の度合いは減り、より遠くまで滑る、その結果、ストーンの曲がり(カール)を減らすことができるわけです。 


スウィーピング

ところが、スウィーピング技術の近年の急速な進歩と新素材を使ったブラシの登場によって、氷表面を極めて大きな力でスウィープできるようになりました。氷は単に「摩擦」されるだけでなく、より大きな力を受け「削られる」つまり「摩耗(研削・研磨)」されるようになったのです。カーリング競技では氷表面にダメージを与えるスウィーピングは禁止されていますが、氷表面がどんな状態を「ダメージ」と判定するのかは決まっていません。また、たとえ「ダメージ」が定義されたとしても、それを競技中リアルタイムに検出する技術や測器は開発されていません。世界カーリング連盟は、当面は特定のブラシ以外は使用禁止という規則を設けて現状を凌いでいる状況です。

氷の科学からみれば、強力なスウィーピングを行うと、摩擦による温度上昇だけでなく、摩耗によって氷表面が削られることは当然のことです。どんなものでも強くこすると摩耗・研削・研磨されることは日常よく経験することです。タイヤや靴底がすり減るのも、こびり付いた汚れがこすれば取れるのも、また石も金属も磨けばピカピカにきれいになるのも日常生活でお馴染みです。

ところが、カーリングでは少し事情が違います。すなわち、強力なスウィーピングで氷が「摩耗」しますと、氷表面にはわずかですが傾斜ができます。この「局所傾斜(local slope)」 はストーンの運動に大きな影響を与えます。計算結果の一例を図に示しました。このアイスシートでは、ストーンに回転を与えずに初速1.5 m/sで滑らせると28 mまで滑って止まります。図には、ストーン前面の氷表面を24 mからスウィーピングした時の軌跡を示しました。青、赤、緑はスウィーピングの強さの違いで、それぞれ氷面が0.01 mm、0.05 mm、0.1 mm だけ摩耗するスウィーピングを示しています。ストーンは、スウィーピングによってそれぞれ3.5 cm、19.6 cm、および 44.6 cm曲がって、つまりカールして止まりました。すなわち、スウィーピングによる局所傾斜のため傾斜方向に重力加速され曲がったのです。また同時に、滑る距離も伸びていることがわかります。 

スウィーピング時の軌跡


ストーン前面に局所傾斜をつくるようにスウィーピングすれば、ストーンを加速することも不可能ではありません。摩耗によって生じる局所傾斜は、ストーンを後方以外の任意の方向に重力加速できますから、スウィーピングの方法を工夫すれば、原理的にはストーンを加速したり、曲がる方向を変えたり、いろいろなコントロールが可能となります。将来そのようなウルトラ・スウィーピング・テクニックが生まれるかもしれません。しかし、その時には、氷表面の「ダメージ」の明確な定義と、競技中リアルタイムで監視する技術開発、そしておそらくカーリング競技のルールの変更、という難問が解決されなければなりません。スウィーピングを行わない車椅子カーリングは、この意味で極めて賢い方法でこの難題を避けたカーリング・スポーツということができます。


  • *スウィーピングによる摩耗および局所傾斜についての詳細は下記論文を参照願います。

  • 1.前野紀一(2016)スウィーピングのカーリング・ストーン運動に対する影響―摩擦による温度上昇,摩耗による局所傾斜および氷微粒子生成―. 日本機械学会シンポジウム:スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス2016講演論文集,C-23.
  • 2.前野紀一(2016) スウィーピングによる氷の摩擦と摩耗. 日本雪氷学会日本雪工学会雪氷研究大会(2016・名古屋)講演要旨集、B-35,81.

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