前川製作所 技術研究所 R&D CENTER

サイエンスコラム About R&D Center

TOP>サイエンスコラム>連載講座「低温環境の利用技術」(10)

10.氷結晶層の変形特性とその利用技術


単結晶氷シートブロックの曲げ変形の様子


写真1 単結晶氷シートブロックの曲げ変形試験の様子


写真1は、単結晶氷シート(数ミリ厚さ)を多数重ねたブロック状氷層の上部に圧力を加え、単結晶氷シートの曲げ変形を観察する試験の様子を示したものです1)。氷の結晶には全体が単一の結晶からできている単結晶氷といくつもの単結晶氷が結晶粒界を介して集合体となる多結晶氷(後述の図4参照)があります。この単結晶氷は、水分子の配列の乱れがなく整然と並んだ状態の氷で、気泡などの不純物を含まず、極めて透明度が高くそして硬い氷です。大きな単結晶氷は、アラスカの氷河などに多く存在しており、氷物性の測定に利用されています。人工的に大きな単結晶氷を製造するのは、難しいとされています。なお、一枚の単結晶氷では、その強度が非常に小さいために、多数の単結晶氷シートを重ねて試験研究に利用しています。

写真1は、シュリーレン現象*1を利用して撮影したもので、灰色の層が単結晶氷シートそして黒い線は同シートの境界を示しています。加圧点から破線で示すように、扇状に多層の単結晶氷シートが湾曲しており、氷結晶が塑性変形していることが分かります。加圧操作を除いても、多層単結晶氷は湾曲状に塑性変形した状態を維持しています。

*1:透明な物質内の位置により光屈折率が異なる場合に、その部分に縞模様の影が見える現象で、写真1では単結晶氷シートの境界が黒くなって見えます。

第10回の連載講座は、氷結晶層の弾性および塑性変形特性の解説とその変形を利用した配管などの機械加工技術、そして低温における金属材料の収縮特性に関する利用技術を紹介します。

(1)氷結晶層の弾性および塑性変形そして破断強度

ここでは、各種の氷柱へ引張圧力や圧縮圧力を加えた場合の氷の強度や破断について解説します。氷の変形機構や氷の破壊強度などは、後述の氷河の流動や氷曲げなどの機械加工技術の基本となります。


(a)単結晶氷と多結晶氷の応力とひずみの関係
第5回サイエンスコラム(氷粒子とドライアイス粒子の粘弾性とその利用技術)において、氷球を落下させて床に衝突させると氷球は弾むことを説明しました。このように氷球に衝撃力を与えると弾性的性質が現れることになります。

ここでは、単結晶氷円柱に引張応力を加えた場合に、引張応力とひずみの関係から単結晶氷円柱の変形挙動について説明します。図1に示す単結晶氷円柱(長さ50mm x 直径10mm)は、氷結晶のc軸と円柱軸とのなす角が45°となるように円柱状に切り出したもので、引張荷重を円柱軸方向に加えることで、45°の面が破断面となるようにしています。通常、強度の弱い材料は、引張や圧縮荷重方向と45°の傾斜面に最大応力がかかり、45°の傾斜面に沿って破断が起こります。

屋根ふき材の凍結強度(せん断応力)測定装置


図1 単結晶氷円柱のc軸方向と引張方向


図2(a)は一例として、炭素鋼の引張応力と歪の関係を示しました2)。図2(b)は、図1に示す氷円柱の配置で引張応力と歪に関して歪速度(単位:1/s)をパラメータとして測定結果を示したものです3)。ここでの歪は、初期状態における氷円柱の長さ(50mm)当たりにどれだけ氷が変位するかを示す無次元量です。なお、この試験での歪速度は小さな値で行っています。図2の試験結果から、まず応力の増加とともに歪も増加する弾性域を経て、極大降伏応力に達した後には、歪の増加に対して応力は急に減少する特異な性質を示します。また、歪速度の増加とともに極大降伏応力は増大する傾向となります。(応力や歪速度については第5回でも解説されています。必要に応じてご覧ください。)

金属材料などの引張試験では、まず引張応力の増加とともに歪の関係が直線的となる弾性域(応力を除くと歪はなくなります)そして極大降伏応力後、加えた応力を少し減少することで歪が増加する塑性域(応力を除いても歪は存在します)が現れます。一方、氷結晶の場合は、衝撃力などの歪速度が極端に大きな場合は、弾性的性質を示しますが、図2に示すような小さな歪速度では、後述する氷の転位(Dislocation)現象(氷結晶のズレや歪)が現れて、小さな応力で転位が移動することで、せん断面の滑りが起こります。この場合、応力を除いても元に戻ることはない塑性変形が起こり、最終的に破断することになります。すなわち、氷の塑性変形は、小さな応力で起こることになります。

凍着状態と凍着強度の関係

図2 炭素鋼の応力と歪の関係(a) 単結晶氷柱の応力と歪の関係(b)


一方、多結晶氷柱の引張試験における歪の経時変化を図3に示してあります。多結晶氷は、図4のように単結晶氷が多数集まってできた複雑な構造となります。このような構造を有する多結晶氷に引張応力が加わると、まず短時間の間に弾性変形を示し、その後歪の増加率は時間の経過とともにゆっくりと減少する粘弾性的性質(遅延弾性)を示します。次に、歪速度が一定で推移する塑性変形(定常クリープ)となります。ここで、引張応力を取り除くと、最初に示した弾性歪が元に戻り、その後ゆっくりとした遅延弾性領域が現れ、最終的には塑性変形による永久歪が残ることになります。多結晶氷に力が加わると、各単結晶氷粒内部では転位が起こり、後述の氷河流動などの原因となる底面滑りが発生します。この多結晶氷の定常クリープ変形中の塑性的性質は、単結晶氷粒の大きさや氷結晶軸の向きなどの氷結晶構造に依存することになります。

多結晶氷に引張応力を加えた場合の歪の経時変化


図3 多結晶氷に引張応力を加えた場合の歪の経時変化


多結晶氷の構造


図4 多結晶氷の構造


(b)氷結晶の転位と塑性変形
通常の氷結晶においては、構成する分子は完全に規則正しく配列されておらず、水分子の存在すべき格子点に分子が存在しない空孔と正規の格子点でないところに分子が入り込んでいる格子間分子のような点欠陥が存在します。氷結晶にせん断応力が加わると、点欠陥に応力が集中し、その結果分子が連続的に移動する転位が起こります。氷結晶の塑性変形は、転位がある特定の滑り面上において特定の滑り方向へ移動するせん断変形と理解できます。この転位現象には、刃状転位(Edge dislocation)とらせん転位(Screw dislocation)の二種類があります。 まず、刃状転位の概要を図5に示します。氷結晶にせん断応力を加えると図5左に示すように刃状転位線が転位方向に移動して氷結晶のずれを生じ、最終的に右図のような氷結晶に滑り変形(塑性変形)が起こります。刃状転位は、の記号で示され、縦の棒は余剰半面(余分な分子)を示し、横の棒は滑り面を示します。図6は、せん断応力を加えた場合に、刃状転位が移動する様子と分子配列の変化の概要を示したものです。の記号で示す刃状転位に応力が集中し、刃状転位の転位線(上部結晶の余剰半面)が右に動いていく様子が分かります。上部結晶の余剰半面の分子は下部結晶の分子と結合しており、転位の右側への移動に伴って右隣下部の結合分子との結合に変化することになります。移動した転位が結晶の右表面に到達すると、図5右に示すように1結晶格子分の段差(変位)が生じることになります。このような転位現象により、氷結晶の塑性変形(定常クリープ)が起こることになります4)

刃状転位の概要


図5 刃状転位の概要


刃状転位が移動する様子と分子配列の変化の概要


図6 刃状転位が移動する様子と分子配列の変化の概要


次に、らせん転位の概要を図7に示します。せん断応力を加えることで転位方向(せん断応力方向と垂直な方向)に向かってらせん転位が進行する様子が分かります。らせん転位の起点から1結晶格子分のずれが転位方向に進行するようになります。最終的に、右側の図に示すように1結晶格子分の滑り変形量の段差が生じることになります。

らせん転位の概要


図7 らせん転位の概要


氷結晶格子に起こる多くの転位は、純粋な刃状転位やらせん転位成分を持つわけでなく、両方の性質をもった混合転位(Mixed dislocation)であることが多いようです。

(c)氷角柱の圧縮および引張による破断
ここでは、多結晶からなる氷角柱に圧縮および引張応力を加えた場合の氷の破壊強度に関して紹介します。
多結晶氷角柱試験における氷角柱の結晶方向(a軸とc軸)そして圧縮と引張り方向を図8に示しています。

氷角柱の結晶方向と印圧方向


図8 氷角柱の結晶方向と印圧方向


試験は市販の透明多結晶氷から切り出した氷角柱を図8に示すようにc軸に直角な圧縮応力を加えた場合の破壊強度を温度の関係で示したものが図9です。ここでの破壊強度は、前掲の図3に示す塑性域を経て氷角柱が破壊する応力値を意味します。なお、圧縮応力の印加速度は5x103kPa/sとしています。図10は、透明多結晶氷のc軸に平行な引張応力を印加した場合の破壊強度と温度の関係を示したものです。図9に示す圧縮応力の印加に比べて、引張応力の場合は破壊応力が小さく、その温度依存性は、-40℃以下で大きくなる傾向となります5)。なお、図10における氷角柱の引張応力による破断応力は、前掲の図2における氷円柱の破断応力よりも大きくなっています。この理由として引張応力方向と結晶軸(c軸)に対する方向の違いや単結晶氷と多結晶氷の違いなどの影響が考えられます。

市販多結晶氷の破壊(圧縮)強度と温度の関係


図9 市販多結晶氷の破壊(圧縮)強度と温度の関係


市販多結晶氷の破壊(引張)強度と温度の関係


図10 市販多結晶氷の破壊(引張)強度と温度の関係


(d)氷河の流動機構
氷河は寒冷地域の渓谷や傾斜した地形に、多年にわたって雪や氷が堆積し、その重みによる圧縮圧力により形成された多段な氷層の集合体と言えます。南極の氷河は、年間250m程度も移動していると、米国航空宇宙局(NASA)が報告しています。さらに、傾斜した岩盤上の氷河は、1日当たり3mから6mも移動するようです。
図11は、岩盤上にある氷河の移動状態を模式的に示したものです。氷河底層領域の氷層は、上部にある氷層の重みによる大きな圧力により、塑性変形(定常クリープ)しながら移動することになります。この塑性変形による氷層の移動は、前述のような氷結晶格子の欠陥による転位に基づくもので、氷層の移動に伴い転位密度も増加して移動速度も大きくなります。さらに、氷河の移動には、岩盤と氷層の接触界面における摩擦係数に依存する底面滑りも関係します。また、周囲温度が0℃近辺の状態では、加圧状態にある底面の氷は圧力融解による水膜の形成で、さらに氷層と岩盤の滑りが助長される場合もあります。

氷河の移動機構


図11 氷河の移動機構


(2)氷の変形を利用した円管曲げ加工

円管や中空2重管などの曲げ加工には、パイプベンダー(パイプを常温で曲げる工具)による曲げ加工の際に生じる管変形を防止する目的で、管内の芯材として砂や低温合金(融点100℃付近の低温はんだなど)を利用する加工法そしてバルジ加工法(曲げ加工後管内に液圧をかけて管形状を成形する加工法)が従来から採用されています。
一方、環境や騒音問題そして省エネルギーなどの観点から、芯材として氷を利用する氷曲げ加工があります。この加工法は、中空管に水を注入し、冷却後の凍結氷を芯材としてパイプベンダーにより、曲げ加工を行うものです。曲げ加工後、熱湯などの加熱操作により氷を融解させることで、芯材を簡単に排出することができます。水から生成した純氷では、曲げ加工時に氷の破壊などで芯材としての機能を阻害することを考慮して、プロピレングリコール水溶液など(数%濃度)の水溶液から生成する、かゆ状結晶(Mushy crystal、第7回サイエンスコラムの写真3にかゆ状結晶を掲載しています)からなる多結晶氷を利用します。水溶液濃度や冷却温度の調整により、生成した氷結晶の硬さを制御します。生成した氷が硬ければ氷接触面に氷跡が残り、柔らかければ円管が扁平となり、水溶液濃度や冷却温度が氷の硬さを決める大きなポイントとなります。写真2は、氷曲げにより加工されたU字管の外観を示したもので、良好な曲げ加工となっています。なお、管外方面の白い部分は霜の生成によるものです。図12は、氷曲げによる円管内部の氷状態を模式的に示したもので、管の曲がりの大きな上部領域では氷結晶に引張応力が働き、一方管曲がりの小さな下部領域では氷結晶に圧縮応力が掛かることになります。

氷曲げによるU字管外観


写真2 氷曲げによるU字管外観

氷曲げによる管内氷結晶への応力状態

図12 氷曲げによる管内氷結晶への応力状態


トロンボーンなどの管楽器は曲がり部分が多く、その形状は音色に影響するために各部の寸法精度や表面性状が重要となります。写真3(a)は、管楽器であるトロンボーンの曲げ加工に氷曲げを利用したもので、管内に水溶液氷を生成した状態でベンダーにかけて管を180度曲げている様子を示したものです6)。 写真3(b)は、ベンダーから取り外したトロンボーンの一部を示したもので、管外表面の白い部分は、生成した霜を示しています。

トロンボーン加工の様子

写真3 トロンボーンの氷曲げ加工の様子(a) 氷曲げ後のトロンボーンの状態(b)


(3)氷の塑性変形を利用した中空2重管の曲げ加工

オートバイなどに装備されている排気マフラーは、消音や断熱そしてエンジン性能上重要な部品と位置付けられています。図13は、排気マフラーの構成要素を示しており、排気消音器、消音器接続管そして排気管からなり、消音器接続管と排気管は中空2重管構造となっています。

排気マフラーの構造

図13 排気マフラーの構造


排気マフラーの中空2重管部の外管と内管の空間は、空気断熱と消音機能を有するもので、氷曲げ加工を行う場合は管壁に設けた細穴により水溶液の注入および氷曲げ後の融解水溶液の排出に利用します。図14は、氷曲げ加工における2重管内水溶液の凍結状態を示したもので、2重管内の氷層には引張応力や圧縮応力が掛かることになります。生成した氷結晶が柔らかすぎると2重管は偏平変形となり、硬すぎると管壁に氷跡が残ることになります。水溶液濃度が2~3%で、冷却温度が-30℃~-40℃の条件が良いようです7)

中空2重管の氷曲げによる応力状態

図14 中空2重管の氷曲げによる応力状態

(4)水の凍結膨張圧を利用した管溶接部の残留応力の除去など

複数の円管接続に全周突合せ溶接が行われると、円管内面の溶接部近傍では円管周方向と軸方向に発生する引張応力が残留応力となります。この残留応力は応力腐食割れの原因となります。引張残留応力の除去には、管の外側加熱や内側冷却により温度差をつけて内側で圧縮応力を発生させる方法や水圧により内圧を加えて圧縮応力を発生させる方法などがあります。また、円管内水の凍結による膨張圧を利用する方法もあります。
図15(a)に示すように、水封した円管の溶接部の両側を冷却して氷栓(アイスプラグ)を形成し、その体積膨張により、水層の内圧を増加することができます。この密閉状態での氷の生成により、200 MPa程度の圧力が発生します。図15(b)のように、氷体積の増加すなわち水の内圧の増加により、溶接部を含む円管が膨らみ、塑性変形が起こる程度に管を押し広げます。その後、氷栓を融解して管内圧を除くと膨らんでいた管は弾性変形分だけ収縮し、管の内面には圧縮応力が発生します。このような方法で全周突合せ溶接部内面の残留応力の改善が可能となります8)

水の凍結膨張圧を利用した管溶接部残留応力改善の概要

図15 水の凍結膨張圧を利用した管溶接部残留応力改善の概要


さらに、凍結による氷の膨張圧を利用した加工法に、図16に示すような銅管レデューサーの接続加工があります。まず、異形銅管やレデューサー部に水を満たして、氷点以下に冷却し、生成した氷層による膨張圧力を利用して、異形管とレデューサーを圧着による接合を行うものです。

銅管レデューサー

図16 銅管レデューサーの凍結圧による接合の概要(a)と接合後の銅製品の写真(b)


(5)金属材料などの低温収縮特性を利用した冷やしめなどについて

鉄道関係の車軸と車輪やエンジンヘッドの弁座用孔と弁座などは、金属材料の冷却による収縮現象を利用した冷やし嵌めが利用されています。
図17は列車の車軸と車輪の冷やし嵌めの様子を示したものです。まず、車軸を液体窒素などで冷却収縮後、内径の大きな車輪へ挿入し、車軸を常温に戻すと車軸は膨張して冷やし嵌めとなります。例えば、車軸直径を150mmそして冷却温度を-80℃(常温20℃)とすると100℃の温度差が得られ、鉄の温度膨張係数を加味すると、車軸の直径は 160μm (例えば、はがきの厚さは220μm程度です)程度小さくなります9)

車軸と車輪の冷やし嵌めの状態

図17 車軸と車輪の冷やし嵌めの状態


また、ボルトとナットなどが腐食や錆びた場合には、その取り外しは困難な場合があります。
そのような場合には、液体窒素やドライアイスなどでボルト部を -50℃ 程度に冷却し、ボルトの低温収縮や錆などの低温離脱現象を利用することで、ボルトとナットなどを分離することが容易になります(図18)。

ボルトとナット間の錆による付着の低温離脱の状態

図18 ボルトとナット間の錆による付着の低温離脱の状態


参考文献
1)東晃、応用物理、34巻(1965)、頁80
2)石森富太郎、原子炉工学講座4、燃・材料、培風館(1974)、頁2
3)前野紀一、氷の科学、北海道大学出版会(2006) 、頁96
4)小橋眞、高田尚記、構造材料学、名古屋大学工学部出版(2016)、頁3
5)石本敬志、開発土木研究所月報、441号(1990)、頁34
6)赤池学、WEDGE,Jan.、(1998)、頁64
7)田代庸司、中島智之、YAMAHA MOTOR TECHNOLOGY REVIEW(2003)、頁1
8)吉川孝三、雪氷、49巻(1987)、頁217
9)内田大介、森猛、土木学会論文集、64巻(2008)、頁101

←前へ 10 11 次へ→