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第2回 カーリングのストーンは重さ20キロ!!
カーリングには、驚きや不思議が一杯つまっています。その一つ「カーリングの氷はデコボコ」については前回書きました。二つめの驚きはストーンの重さです。男性選手も女性選手も、ストーンを軽々と持ち上げて投げているように見えますが、実際にストーンを持ち上げてみるとビックリです。ストーンは重さ20キログラムの石の塊りですから、そうとう力に自信のある人でも軽々と持ち上げるというわけにはいきません。
カーリングは、緻密な頭脳プレーが必要なことから「氷上のチェス」と呼ばれますが、一方で、このような重いストーンを約28メートル先の思いのポイントに停止させたり、ねらったスピードで他のストーンに当てたりするテクニックが要求されます。それは鍛えられた肉体と磨かれた技によってのみ可能です。カーリングが冬のスポーツの祭典である冬季オリンピックの一種目に数えられるのはこのためだと思います。
しかし、氷のサイエンスの眼でみると、こんな重いストーンを使うのにはもっと積極的な科学的根拠があります。それは、ストーンの底の特殊な形状とも関係しています。カーリング競技で使われるストーンは,英国のスコットランド産やウェールズ産の花崗岩ですが,底面は真中が凹んだ皿状になっており、氷と接触するのは細い帯状のランニング・バンドです。バンドの幅は約5 ミリ、直径は約13 センチですから、面積は約平方センチ。したがって、単純に計算すると、氷ににかかる圧力は約1気圧ということになります。しかし、前回書きましたようにカーリング会場のアイスシート表面は細かな氷の突起(ぺブル)となっていますから、ぺブル先端にかかる実際の圧力はもっとずっと大きく、数倍から数十倍になります。計算してみますとぺブル先端には少なくとも50気圧の圧力、すなわち1平方センチあたり約50 キログラムという大きな荷重ががかかっていることになります。
氷は圧力をかけるほど滑りやすくなります。前回、鏡のように平らな氷面とぺブルのあるデコボコの氷面でストーンを滑らすと、ぺブルのある方がずっと滑りやすいことを紹介しました。カーリングのストーンが氷面を滑らかに滑るのは、ストーンの重さと氷面のぺブルのために大きな圧力が発生しているためです。
ストーンの重さが20キロもあるという事実は、もう一つの効果をもたらします。それは氷屑の生成です。氷(ぺブル)に大きな圧力がかかるためストーンは滑りやすいのですが、それと同時に、氷を機械的に変形したり、削ったり、破壊したりします。よく知られているように、カーリング競技の進行とともに、氷面はだんだん削られ、細かな氷の破片(氷屑)が生じます。氷屑は、ストーンの滑らかな運動の邪魔をしますから取り除く必要があります。ところが、最近の研究によると、氷屑は運動の邪魔をするだけではなさそうです。それは、ストーンの微妙な動きを左右する本質的な働きをしている、というのです。詳しいことはあらためてこの欄でお話することにします。
(前野紀一 北海道大学名誉教授・前川製作所技術研究所技術顧問)
雪と氷のひとくちサイエンスシリーズ
著者紹介
前野 紀一(まえの のりかず)
北海道大学名誉教授
1940年 北海道幌延(ほろのべ)町生まれ、中学より札幌
1963年 北海道大学理学部地球物理学科卒業
1965年 北海道大学大学院理学研究科修士課程(地球物理学専攻)修了
同年北海道大学低温科学研究所に勤務、助手、助教授を経て1984年教授
その間、カナダ・マギル大学物理学科研究員、スイスVAW(ファー・アー・ヴェー)研究所研究員、フランスCEMAGREF(セマグレフ)研究所研究員、ノルウエーNGI(エヌジーアイ)研究所客員研究員。
1996年‐1998年 国際雪氷(せっぴょう)学会(International Glaciological Society)会長(本部イギリス・ケンブリッジ)
2004年3月 北海道大学定年退官
北海道大学名誉教授、北海学園大学・藤女子大学非常勤講師
北海道オーストリア協会会長
サイエンスアイ(石狩市在住の科学研究者グループ)代表
毎月第2土曜日は石狩市民図書館でサイエンスプラザ石狩(子ども科学相談室・おもしろ実験室)を開催
著書「雪氷の構造と物性(古今書院)」、「新版 氷の科学(北大出版会」、「絵本 こおり(福音館書店)」、他
NHKアーカイブス NHK特集「厳冬・黒部峡谷 ?謎の雪崩"ホウ"を追う?」(1988年)
2008年7月NHK番組「ためしてガッテン」氷・ムペンバ現象
2008年12月NHK BSHi「アインシュタインの眼」カーリング